【弁護士の視点】元カープ・多田大輔容疑者を住居侵入・窃盗容疑で逮捕
目次
はじめに
プロ野球・広島東洋カープの元選手、多田大輔容疑者(30)が、2026年10月19日、住居侵入と窃盗の疑いで広島県警に逮捕されたと報じられました。
報道によると、同年5月、広島市中区の女性が住む集合住宅の一室に侵入し、現金1万8000円、100ドル紙幣5枚、通帳1通を盗んだ疑いが持たれています。多田容疑者は、警察の調べに対して容疑を認めているとされています。
また、多田容疑者は9月にも、他人名義のクレジットカードを不正に使用したとして、詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。こちらは、今回の住居侵入・窃盗とは別の事件です。
逮捕されたことによって、犯罪事実や有罪が確定したわけではありません。
今回の報道について、「物を盗んだなら窃盗罪ではないのか」「住居侵入と窃盗の両方が成立すると、刑はどうなるのか」と疑問を持つ方もいるでしょう。
本稿では、空き巣で問題となる犯罪、複数の犯罪が成立する場合の刑の扱い、別事件や余罪の影響、示談による不起訴・前科回避について解説します。
空き巣では、物を盗む前の「侵入」も犯罪になる
一般に「空き巣」と呼ばれるのは、住人が不在の住宅などに侵入して金品を盗む行為です。刑法に「空き巣罪」という名前の犯罪があるわけではなく、通常は住居侵入罪と窃盗罪が問題になります。
刑法130条は、正当な理由なく、人の住居などに侵入する行為を処罰しています。住居侵入罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金です。
ここでいう「住居」には、一戸建てだけでなく、マンションやアパートの居室も含まれます。住人が外出していても、日常生活の場所として使われている住宅であれば、住居であることに変わりはありません。
また、鍵や窓を壊して入った場合だけが住居侵入になるわけではありません。玄関や窓が開いていても、それだけで立入りを許されていることにはなりません。
重要なのは、居住者の意思に反する立入りであったかという点です。金品を盗むために他人の住宅へ無断で入る行為は、典型的に住居侵入罪が問題となります。
住居侵入罪は、実際に金品を盗んだかどうかとは別に成立し得ます。 侵入した後に何も盗まず立ち去った場合でも、住居に侵入した行為自体について刑事責任を問われる可能性があります。
現金だけでなく、通帳を持ち去る行為も窃盗になる
刑法235条は、他人の財物を窃取した者について、窃盗罪を定めています。法定刑は、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
窃盗では、他人が管理する金品を、その意思に反して自己の支配下に移したかが問題になります。また、権利者を排除し、その物を自分の物のように利用・処分する意思が必要とされています。
対象になるのは、日本円の現金だけではありません。外国の紙幣や、預金通帳なども窃盗罪の対象となる財物です。
今回の報道では、日本円に加え、500ドルと通帳1通が被害品として挙げられています。そのため、日本円の「1万8000円」という金額だけを取り出して、事件全体の被害を評価することはできません。
ただし、通帳を盗んだことと、預金そのものを引き出したことは別です。通帳が盗まれたという報道だけから、口座内の預金も失われたと推測することは避ける必要があります。
住居侵入と窃盗の両方が成立すると、刑は足し算になる?
住居侵入罪の上限は3年、窃盗罪の上限は10年です。しかし、窃盗のために住居へ侵入した事件で、これを単純に足して「13年以下になる」と考えるわけではありません。
刑法54条1項は、犯罪の手段又は結果である行為がほかの罪名にも当たるときは、その最も重い刑によって処断するという仕組みを定めています。このような関係を「牽連犯(けんれんはん)」といいます。
例えば、金品を盗むために他人の住宅へ侵入し、そこで窃盗を行った場合には、住居侵入が窃盗の手段となっています。通常、この二つは牽連犯として扱われ、より重い窃盗罪の刑を基準に処断されます。
両方の犯罪が成立することと、刑期を単純に合計することは別です。
一方で、住居侵入という行為が処分の判断から消えるわけではありません。どのような方法で住宅に入ったのか、計画性があったのか、住人にどのような不安を与えたのかといった事情も、事件の悪質性や刑の重さを考える際に重要になります。
なお、複数の犯罪があれば、どのような組合せでも牽連犯になるわけではありません。行為の目的や各犯罪の関係を具体的に確認する必要があります。
9月にも逮捕されていることは、今回の事件にどう影響する?
逮捕の順番と、行為があった時期を分けて考える
報道によると、9月の詐欺容疑での逮捕は、同年6月に他人名義のクレジットカードを使用したとされる事件です。今回の住居侵入・窃盗の容疑は、それより前の5月の行為に関するものです。
したがって、今回の報道は「9月に逮捕された後、新たに空き巣を行った」という内容ではありません。逮捕された順番だけで、犯行の時期や経緯を取り違えないことが大切です。
また、逮捕歴があることと、前科があることは異なります。 逮捕歴だけを理由に、過去に有罪の裁判を受けた人として扱うことはできません。
9月の事件の処分内容については、今回確認した報道だけでは分かりません。そのため、前科があることを前提に今回の処分を予測することは適切ではありません。
別事件が起訴される場合には「併合罪」が問題になる
別の機会に行った犯罪についても起訴される場合には、刑法45条以下の「併合罪」の規定が問題になります。
併合罪とは、基本的には、確定裁判を経ていない複数の犯罪をいいます。一定の場合には、複数の事件が一つの裁判で審理され、まとめて刑が言い渡されます。
二つ以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、最も重い罪の刑期の上限に、その2分の1を加えるという加重の仕組みがあります。ただし、各罪の刑期の上限の合計を超えることはできません。
このため、窃盗の手段として住居に侵入した場合の「牽連犯」と、別の機会に行った詐欺や窃盗もある場合の「併合罪」とでは、刑の扱いが異なります。
もっとも、本件でどの事件が起訴され、どのように審理されるかは、現時点で確認できる報道からは分かりません。
余罪が疑われると、起訴や量刑にどのような影響がある?
一般に「余罪」とは、現在捜査の対象となっている事件以外の犯罪を指します。
複数の窃盗事件への関与が明らかになれば、被害件数、犯行の期間、被害総額、計画性、繰り返した理由などが、起訴・不起訴や量刑を検討するうえで重要になります。
ただし、余罪があると疑われていることと、その犯罪を行ったと証明されたことは別です。一つの事件を認めたからといって、ほかの事件への関与まで当然に認められるわけではありません。
本人としても、事件ごとに、次のような事項を整理する必要があります。
- いつ、どこで、どのような行為をしたのか
- 何を持ち去り、その後どうしたのか
- 自分が関与した事件と、関与していない事件はどれか
- 記憶が曖昧な部分はどこか
- 被害弁償や示談が済んでいる事件はあるか
取調べに合わせて記憶のない部分まで推測で説明したり、早く終わらせたいという理由で関与していない事件まで認めたりすることは避けるべきです。
弁護士は、本人の説明と証拠関係を確認し、各事件について何を認め、何を争うのかを整理します。
また、別の犯罪事実について逮捕・勾留の要件が認められれば、再逮捕されることもあります。その場合には身柄拘束が長期化することがあるため、被害者対応と並行して、事件ごとに勾留の必要性を検討し、早期の身柄解放を求めます。
住居侵入・窃盗でも、示談によって不起訴を目指せる
起訴前の示談は、不起訴・前科回避に向けた重要な対応
住居侵入や窃盗の事実を認めている場合には、被害者への謝罪、被害品の返還、被害弁償、示談を早期に進めることが重要です。
起訴前に被害者との示談が成立すれば、不起訴となる可能性は大きく高まります。当事務所の実務経験でも、起訴前に示談が成立した事件は、高い確率で不起訴処分につながっています。
犯罪の成立を認める場合でも、検察官が事件の内容や事件後の事情などを考慮し、起訴を見送る「起訴猶予」という処分があります。被害回復と示談は、この判断に向けて重視される事情です。
示談では、被害が回復したことに加え、被害者が処罰を求めない意向を示しているかも重要になります。弁護士は合意内容を示談書にまとめ、被害者の意向を正確に反映した資料を検察官に提出し、不起訴処分を求めます。
起訴後であっても、被害弁償や示談は刑の軽減や執行猶予を求めるうえで重要です。ただし、不起訴による前科回避を目指すには、起訴前から動くことが大切です。
住宅に入られた不安にも配慮する
住居侵入を伴う窃盗では、被害者が失ったのは金銭や物だけではありません。「また自宅に来るのではないか」「安心して生活できない」といった不安を抱えることがあります。
そのため、盗んだ金額の弁償に加え、具体的な被害に応じて、次のような点を検討します。
- 被害品の返還や、返還できない物の弁償
- 鍵の交換、破損箇所の修理、通帳の再発行などに要した費用
- 精神的な苦痛に対する慰謝料
- 被害者の自宅に近づかず、連絡や接触をしないこと
- 再び同様の行為をしないための具体的な対策
謝罪のためであっても、本人や家族が突然被害者の自宅を訪れると、かえって恐怖を与えることがあります。弁護士を窓口に、被害者の希望する連絡方法や条件を確認して交渉を進めます。
複数の被害者がいる場合には、各事件について被害回復と示談を進める必要があります。どの事件の被害について合意したのかを明確にし、事件全体の解決に向けて対応を整理します。
なお、多田容疑者の今回の事件で、被害弁償や示談が行われているかは、確認した報道では明らかにされていません。
関連記事 【窃盗・不起訴】処罰感情の強い被害者との示談が成立し、不起訴となったケース
前科を避けるためには、起訴前の対応が重要
逮捕や書類送検だけで前科が付くわけではありません。一方、有罪の裁判が確定すれば、罰金刑や執行猶予付きの判決であっても前科になります。
不起訴処分になれば、その事件で有罪の裁判を受けることはなく、前科は付きません。事実を認めている事件では、早期の被害弁償・示談と再発防止に向けた取組みが、前科回避につながります。
再発防止策は、単に「二度としません」と約束するだけでなく、事件の背景に応じて考えることが大切です。生活費や借金の問題があれば家計や返済方法を見直し、必要に応じて家族の支援や専門機関への相談を取り入れるなど、実行できる対策を検討します。
住居侵入と窃盗が同時に問題になる事件や、別事件も捜査されている事件では、被害の全体像と各事件の進行状況を把握する必要があります。
原綜合法律事務所では、本人との接見、取調べへの対応、被害者との示談交渉、身柄解放、不起訴に向けた活動を、事件の状況に応じて進めます。ご本人やご家族が住居侵入・窃盗事件への対応に悩んでいる場合には、早い段階でご相談ください。
※本記事は、2026年10月20日時点で確認できる報道及び法令をもとに、刑事法上の一般論を解説したものです。多田大輔容疑者は容疑を認めていると報じられていますが、本記事が犯罪事実の存在や刑事責任を判断するものではありません。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属。登録番号52401)
原綜合法律事務所(福岡)のご案内
この記事と関連するコラム
Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/criminal-law.jp/public_html/wp-content/themes/hara-sougou-law-keiji/single-column.php on line 75
Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/criminal-law.jp/public_html/wp-content/themes/hara-sougou-law-keiji/single-column.php on line 75
【弁護士の視点】我が家・杉山裕之氏を万引き容疑で書類送検
コラムを読む
公務執行妨害で逮捕? 示談交渉できるケースとできないケース、量刑への影響
コラムを読む
逮捕後の流れと弁護士の役割
コラムを読む
【弁護士の視点】くら寿司「ちいかわ」景品持ち出し疑惑
コラムを読む
公務員が刑事事件を起こした場合|処分と弁護活動のポイント【弁護士解説】
コラムを読む
