【弁護士の視点】我が家・杉山裕之氏を万引き容疑で書類送検
目次
はじめに
お笑いトリオ「我が家」の杉山裕之氏(49)が、2026年10月14日、窃盗の疑いで書類送検されたと報じられました。
報道によると、同年9月15日、東京都目黒区のスーパーで、ウインナーや冷凍食品など食料品7点、販売価格合計1189円の商品を万引きした疑いが持たれています。セルフレジで商品のバーコードを通さずに袋に入れ、店を出たところで従業員に声を掛けられたとされています。
杉山氏は容疑を認めていると報じられています。また、所属事務所のワタナベエンターテインメントも、本人が報道の事実関係を認めていることと、当面の間、謹慎とすることを発表しました。
もっとも、書類送検によって有罪が確定したわけではありません。確認した報道・公表資料の範囲では、起訴・不起訴の処分や、被害店舗との示談の有無は明らかではありません。
今回の報道について、「1189円という少額でも刑事事件になるのか」「セルフレジでうっかりスキャンを忘れた場合も万引きになるのか」と疑問に思う方もいるでしょう。
本稿では、セルフレジの会計漏れと窃盗罪の関係を中心に、書類送検後の手続、被害弁償や示談、不起訴に向けた対応について解説します。
セルフレジで商品を通さずに持ち出すと、窃盗罪になる?
スーパーなどの商品を、代金を支払わず、自分のものにするつもりで無断で持ち出す行為は、一般に窃盗罪の問題になります。店員が会計するレジでも、客自身が操作するセルフレジでも、この基本は変わりません。
刑法235条は、窃盗罪の法定刑を、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金と定めています。「万引き」は日常的な呼び方であり、窃盗罪とは別の軽い犯罪が設けられているわけではありません。
ただし、商品が未精算だったという結果だけで、当然に窃盗罪が成立するわけでもありません。商品を持ち出した際に、代金を支払っていないことを認識していたかなど、本人の認識が問題になります。
法律上は、窃盗の故意に加え、権利者を排除し、他人の物を自分の所有物のように利用・処分する意思である「不法領得の意思」が必要とされています。
例えば、一部の商品だけを意図的にスキャンせず、他の商品と一緒に持ち出した場合、ほかの商品について代金を支払っていても、それだけで窃盗罪を免れるわけではありません。
一方、セルフレジでは商品の移動、読み取り、袋詰め、支払いという一連の操作があります。袋に入れる場面だけを切り取るのではなく、会計全体の流れや、その後の行動まで確認する必要があります。
単なる「スキャン忘れ」と故意の万引きは、どう区別される?
会計を済ませたと誤信していた場合
実際には商品が読み取られていなかったものの、本人は正常にスキャンできたと思っていた場合や、すべての商品を会計したつもりで一部を見落としていた場合があります。
本当に会計漏れに気付かず、盗む認識がなかったのであれば、単なる不注意だけで窃盗罪が成立するわけではありません。
刑法38条1項は、故意がない行為は、法律に特別の規定がなければ処罰しないという原則を定めています。窃盗罪には、単なる過失による持出しを処罰する規定はありません。
もっとも、刑事責任が成立するかという問題と、未精算の商品について店舗と精算・返還の対応をする必要があるかという問題は別です。会計漏れに気付いた場合は、レシートや商品を保存し、店舗に経緯を説明して対応を確認することが大切です。
「忘れていた」という説明だけで決まるわけではない
反対に、本人が「スキャンを忘れただけ」と説明すれば、必ず故意が否定されるわけでもありません。
本人の説明と、実際の行動や客観的な記録が一致するかが検討されます。例えば、次のような事情です。
- 商品をレジにかざすなど、読み取ろうとする動作があったか
- レジの画面や読み取り音、エラー表示をどのように確認していたか
- 何点の商品を購入し、どの商品が未精算となっていたか
- レシートや決済記録と、実際の商品がどう対応しているか
- 店員に声を掛けられる前後に、どのような言動をしていたか
これらの事情を総合して判断するため、「1点ならミス」「複数なら故意」と一律に決めることはできません。
会計漏れの理由を争う場合には、その日の行動を記憶に基づいて整理し、レシートや決済履歴などを残すことが重要です。防犯カメラやレジの記録についても、保存期間が問題になるため、弁護士を通じて早期に保全を求めることを検討します。
なお、杉山氏については容疑を認めていると報じられており、以上は本件がスキャン忘れだったという説明ではなく、セルフレジの会計漏れに関する一般論です。
被害額1189円という少額でも、なぜ書類送検されるのか
窃盗罪には、「被害額が何円以下なら犯罪にならない」という一律の基準はありません。被害額が少なくても、窃盗罪の要件を満たす行為であれば捜査の対象になります。
また、警察が犯罪を捜査した場合には、原則として事件を検察官へ送致する仕組みになっています。書類送検は、高額被害や重大事件に限られた手続ではありません。
例外として、犯罪事実が極めて軽微で、検察官があらかじめ指定した範囲の事件について、検察官に送致せずに処理する「微罪処分」があります。しかし、少額の万引きがすべて微罪処分になるわけではありません。
「被害額が少ないこと」と「送検されないこと」は、同じではありません。
被害額は処分を判断する重要な事情の一つですが、行為の態様、前科前歴、被害回復、反省や再発防止の状況なども検討されます。例えば、同種の行為を繰り返している場合と、前科前歴のない人が初めて事件を起こした場合とでは、評価が異なり得ます。
本件で微罪処分とせずに書類送検した具体的な判断理由は、確認した資料だけでは分かりません。書類送検されたという事実から、前科や余罪があるなどと推測することも適切ではありません。
逮捕されずに書類送検された後は、どうなる?
書類送検とは、一般に、被疑者の身柄を拘束して検察官へ送ることなく、捜査書類や証拠とともに事件を検察官へ送致することをいいます。
逮捕されずに捜査が進む「在宅事件」でも、検察官は証拠を確認し、必要に応じて本人の取調べや追加の捜査を行います。
その後の処分は、大きく次のように分かれます。
- 不起訴:その事件について起訴せずに処理する
- 略式命令請求:本人の同意などの要件の下で、罰金等を科すための書面審理を裁判所に求める
- 公判請求:公開の法廷で審理する刑事裁判を求める
不起訴には、犯罪を立証する証拠が不十分な「嫌疑不十分」や、犯罪の嫌疑は認められても事情を考慮して起訴しない「起訴猶予」などがあります。
したがって、書類送検は、起訴や罰金の決定を意味するものではありません。反対に、逮捕されていないことを理由に、「処罰されずに終わる」と考えることもできません。
在宅事件では、身柄拘束中の事件と同じような勾留期間による時間制約がなく、処分までの期間は事件によって異なります。連絡がない間も、示談や再発防止策など、処分前に取り組めることを進める意味があります。
関連記事 逮捕と書類送検の違いとは?書類送検された場合の今後の流れを解説
商品代金を弁償すれば、それで事件は終わる?
万引きが成立する場合でも、商品を返したり代金を弁償したりすることは、被害回復のために重要です。しかし、事後に弁償したことで、既に成立した犯罪が当然になくなるわけではありません。
また、「代金を支払ったこと」と「示談が成立したこと」も区別する必要があります。
店舗が商品代金を受け取ったとしても、それだけで、事件全体について解決したことや、処罰を求めないことまで合意したとは限りません。受領書に何が記載されているか、どのような話合いがされたかを確認する必要があります。
示談では、謝罪や被害弁償のほか、今後の入店に関する約束、民事上の請求関係、処罰に関する店舗側の意向などを、相手方の希望に応じて整理します。処罰を求めない旨の合意も、店舗側の理解を得て初めて盛り込めるものです。
店舗によっては、本部の判断が必要であったり、示談に応じない方針であったりする場合もあります。弁償や示談を申し出れば、必ず受け入れてもらえるというものではありません。
店舗が直接の連絡や来店を望んでいない場合には、その意向を尊重し、弁護士を窓口として対応を検討します。
万引き事件では、起訴前の示談が不起訴・前科回避につながる
事実を認めている万引き事件では、謝罪、被害弁償、示談、再発防止の取組が、起訴猶予を求めるうえで重要になります。
当事務所の実務経験では、起訴前に被害者との示談が成立した事件は、高い確率で不起訴処分となっています。 万引き事件でも、被害店舗との示談は、不起訴によって前科を回避するための重要な弁護活動です。
検察官は、犯罪の軽重だけでなく、本人の年齢や境遇、犯罪後の状況なども考慮して、起訴するかを判断します。示談によって被害が回復され、店舗側から処罰を求めない意向が示されれば、不起訴に向けた大きなプラスの事情となります。
そのため、事実を認めている場合には、早い段階から謝罪と被害弁償を申し出て、店舗側の意向を踏まえながら示談を進めることが大切です。弁護士が交渉の窓口となり、合意内容を示談書にまとめ、本人の反省や再発防止策とともに検察官へ伝えます。
書類送検された後でも、起訴前であれば、示談を成立させて不起訴を目指すことができます。 送検されたことで諦めず、検察官が処分を決める前に対応を進めることが重要です。
少額の万引きでも、罰金刑が確定すれば前科になる
書類送検されたことだけでは、前科は付きません。前科とは、一般に、有罪の裁判が確定した経歴をいいます。
不起訴処分で終われば、その処分によって前科が付くことはありません。ただし、捜査を受けた経歴まで消えるという意味ではなく、前科と前歴は区別されます。
一方、略式手続で罰金刑が確定した場合には、正式な公判を開いていなくても前科となります。「裁判所の法廷に行かなかったから前科は付かない」という理解は正確ではありません。
また、罰金は国に納める刑罰であり、店舗に対する被害弁償金や示談金とは別のものです。被害額が1189円であれば罰金も1189円になる、という仕組みでもありません。
前科を避けたい場合には、罰金を支払う段階になってから考えるのではなく、起訴前の段階で、犯罪の成立を争うのか、事実を認めて起訴猶予を求めるのかを整理することが大切です。
在宅捜査の段階から、弁護士ができること
セルフレジの万引きを疑われた場合、まず必要なのは、何が起きたのかを正確に確認することです。
実際にスキャンを忘れたのであれば、事実に基づいて説明し、客観的な記録を確保します。早く終わらせたいという理由で、故意に盗んだと認める必要はありません。記憶が曖昧な部分を推測で補わず、供述調書が自分の説明どおりになっているかも確認します。
事実を認める場合には、被害回復とともに、なぜ事件を起こしたのかを振り返り、再発防止を具体化します。例えば、家族と買物に行く、買物や金銭管理の方法を見直すなど、本人の生活に即した対応を検討します。
弁護士は、こうした対応を証拠や資料として整理し、捜査機関に説明します。示談が難しい場合でも、弁償の申出や再発防止への取組など、実際に行った対応を適切に伝えることができます。
逮捕されていない段階でも、取調べへの対応、店舗との交渉、処分に向けた準備を並行して進めることが重要です。
※本記事は、2026年10月16日時点で確認できる報道・公表資料及び法令をもとに、刑事法上の一般論を解説したものです。杉山裕之氏について、確認した資料の範囲では起訴・不起訴の処分及び示談の有無は明らかではなく、本記事が犯罪事実の存在や刑事責任を判断するものではありません。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属。登録番号52401)
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