【弁護士の視点】 YouTuberヴァンビ容疑者が迷惑防止条例違反の疑いで現行犯逮捕
目次
はじめに
YouTuber「ヴァンビ」として活動する白井竜樹容疑者(36)が、2026年10月1日、東京都迷惑防止条例違反の疑いで現行犯逮捕されたと報じられました。
報道によると、東京・六本木のクラブで20代女性の下半身を触った疑いが持たれています。当時は酒に酔っていたとみられ、通報を受けて駆け付けた警察官が逮捕したとされています。警視庁は認否を明らかにしておらず、所属事務所も事実関係を確認中と説明しています。
逮捕されたことによって、犯罪事実や有罪が確定したわけではありません。
今回の報道について、「女性の下半身を触ったというのに、なぜ不同意わいせつ罪ではなく、迷惑防止条例違反なのか」と疑問を持つ方もいるでしょう。
本稿では、両者の違いを中心に、飲酒が刑事責任に与える影響、現行犯逮捕後の手続等について解説します。
痴漢は「迷惑防止条例違反」になることがある
一般に「痴漢」と呼ばれる行為について、刑法に「痴漢罪」という名前の犯罪があるわけではありません。具体的な行為や状況に応じて、都道府県の迷惑防止条例違反や、刑法の不同意わいせつ罪などが問題になります。
東京都迷惑防止条例5条1項1号は、公共の場所や公共の乗物において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせるような態様で、衣服の上から、あるいは直接、身体に触れる行為を禁止しています。
ここでいう公共の場所は、道路や駅などに限られません。不特定又は多数の客が利用する店舗なども、その利用状況によって対象となり得ます。
また、東京都条例は、衣服の上から触れる行為だけでなく、直接身体に触れる行為も対象としています。必ずしも「直接触れたら必ず不同意わいせつ罪になる」という区分ではありません。
不同意わいせつ罪との違いは、服の上からかどうかだけでは決まらない
成人に対する不同意わいせつ罪では、刑法176条1項が定める暴行・脅迫、アルコールの影響、不意打ちなどの事情によって、相手が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にさせ、又はその状態に乗じて、わいせつな行為をしたかが問題になります。
例えば、身体を押さえ付けられて拒否できなかった場合だけでなく、突然のことで拒否する間がなかった場合なども、具体的な状況によっては対象となります。声を上げたり、強く抵抗したりしなかったことだけで、同意があったと判断されるわけではありません。
そのため、両者の違いを考える際には、次のような事情を確認する必要があります。
- 身体のどの部位に、どのような方法で触れたのか
- 接触の時間や程度、前後の言動はどうだったか
- 相手に拒否する時間や、意思を表す余地があったか
- 相手の状態について、行為者がどのように認識していたか
一般に、「服の上からなら条例違反、下着の中なら不同意わいせつ罪」というのが目安となりますが、必ずしも機械的に分けることはできません。
本件について、警察が条例違反の容疑で逮捕した具体的な判断理由は、確認できた報道だけでは分かりません。「下半身を触った」という短い説明から、触れ方や当時の状況を補って推測することは避ける必要があります。
なお、迷惑防止条例の規定や罰則は都道府県によって異なります。
酒に酔っていた場合、刑事責任は軽くなる?
酒に酔っていたという事情だけで、刑事責任がなくなったり、当然に刑が軽くなったりするわけではありません。
飲酒の程度によっては、行為当時、物事の善悪を判断し、それに従って行動する能力がどの程度あったかという「責任能力」が問題になります。刑法39条は心神喪失・心神耗弱について定めていますが、その判断には当時の状態を具体的に検討する必要があります。
特に、「後から覚えていない」ことと、「行為当時に判断や行動を制御する能力がなかった」ことは別です。
飲酒量だけでなく、当時の会話、移動や支払いの様子、行為の前後の言動なども確認することになります。
また、先ほどの不同意わいせつ罪の説明に出てくる「アルコールの影響」は、主に被害を受ける側の意思決定が困難になっていたかという問題です。行為をした側が酔っていた場合の責任能力とは、分けて考える必要があります。
本件では認否が公表されていないため、白井容疑者が記憶の有無や飲酒の影響について、どのように説明しているかを推測することもできません。
現行犯逮捕された後の「72時間」に何が起こるか
現行犯逮捕は、法律上の要件を満たす場合に、逮捕状なしで行うことができる逮捕です。ただし、現行犯逮捕された場合でも、その後に事実関係や証拠を調べる必要があることは変わりません。
警察官が逮捕した事件では、原則として、次の時間制限があります。
- 警察は、逮捕から48時間以内に、釈放するか、身柄を検察官に送る手続をします。
- 検察官は、身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に、勾留請求、起訴又は釈放の判断をします。
勾留請求を受けた裁判官が勾留を認めると、原則10日間、やむを得ない事情があればさらに最長10日間、起訴前の身柄拘束が続く場合があります。「逮捕されても72時間で必ず帰れる」という意味ではありません。
このため、弁護士は早期に本人と接見して事情を確認し、証拠保全、取調べへの対応、勾留を避けるための活動などを進めます。
事実を認める場合と、争う場合では対応が異なる
事実を認める場合
痴漢行為を認めている場合には、被害者への謝罪、被害弁償、示談、再発防止策などを検討します。
示談では、金銭の支払いだけでなく、今後接触しないことや、被害者の処罰に関する意向なども重要になります。飲酒が事件の背景にある場合には、飲酒習慣をどう改めるかなど、具体的な再発防止策を考える必要があります。
被害者が本人や家族からの連絡を望まない場合もあるため、弁護士が捜査機関を通じて意向を確認し、相手方の意思を尊重して交渉を進めます。
事実を争う場合
一方、「触っていない」「混雑の中で偶然接触した」「相手の説明と状況が異なる」など、事実を争う場合には、防犯カメラ、目撃者、当時の位置関係、前後のやり取りなどを確認する必要があります。
記憶が曖昧な部分については、推測で埋めず、覚えていることと覚えていないことを区別することが大切です。被疑者には黙秘権があり、供述する内容や対応方針は、証拠関係を踏まえて検討します。
早く釈放されたいという理由だけで、していない行為まで認めるべきではありません。
不起訴を目指す場合でも、事実を認めたうえで起訴猶予を求める場合と、犯罪の成立や証拠の十分性を争う場合とでは、弁護活動が異なります。。 関連記事 不起訴にしてほしい
条例違反でも、罰金刑が確定すれば前科になる
東京都条例による今回のような身体接触行為の罰則は、常習の場合を除き、6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。条例違反も刑事処罰の対象であり、「条例だから刑事事件ではない」ということではありません。
逮捕されたことだけでは前科は付きませんが、略式命令を含め、罰金刑の裁判が確定すれば前科になります。また、釈放された後も、在宅で捜査が続くことがあります。
示談は処分を判断する際の重要な事情になり得ますが、成立すれば必ず不起訴になるわけではありません。行為態様、被害の程度、前科前歴なども含めて判断されます。
※本記事は、2026年10月3日時点で確認できる報道及び法令をもとに、刑事法上の一般論を解説したものです。白井竜樹容疑者の認否は確認した報道では明らかにされておらず、本記事が犯罪事実の存在や刑事責任を判断するものではありません。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属。登録番号52401)
原綜合法律事務所(福岡)のご案内
この記事と関連するコラム
Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/criminal-law.jp/public_html/wp-content/themes/hara-sougou-law-keiji/single-column.php on line 75
Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/criminal-law.jp/public_html/wp-content/themes/hara-sougou-law-keiji/single-column.php on line 75
【弁護士の視点】全仏優勝・平木理化容疑者が3回目の逮捕|再逮捕・処分保留とSNS型詐欺の共犯責任
コラムを読む
会社役員・経営者が刑事事件を起こした場合の会社への影響【弁護士が解説】
コラムを読む
刑事事件で不起訴処分(前科をつけない)を勝ち取るための示談の重要性について解説
コラムを読む
痴漢の示談交渉を弁護士に相談するメリット、刑事事件の示談の流れ、示談金・慰謝料の相場について解説
コラムを読む
【弁護士の視点】五輪銀メダリスト本多灯被告に拘禁刑1年求刑|危険運転致傷で執行猶予はつく?
コラムを読む
