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【弁護士の視点】元大阪地検検事正の準強制性交等事件で被害を訴える女性が退職|不同意性交等罪との違いは?

はじめに

元大阪地検検事正の北川健太郎被告(66)が、元部下の女性検事に対する準強制性交等罪に問われている事件で、被害を訴えている女性が2026年9月1日に記者会見を開き、8月末で検察庁を退職したことを明らかにしました。

報道によると、北川被告は、2018年9月、懇親会の後に酒に酔って抵抗できない状態だったとされる当時の部下に性的暴行をしたとして起訴されています。

北川被告は2024年10月の初公判で起訴内容について「争うことはしません」と述べたと報じられていますが、その後、「同意があったと誤信していた」として無罪を主張する方針を示しています。現在も刑事裁判は続いており、有罪判決が確定した事件ではありません。

この事件が、現在発生したとすれば、2023年(令和5年)7月13日から施行された「不同意性交罪」の成立が問題となります。しかし、本件では、事件が起きたとされる時期が2018年であるため、改正前当時の「準強制性交等罪」として起訴されています。

そこで今回は、準強制性交等罪と現在の不同意性交等罪の違い、飲酒が関係する性犯罪、事実関係を争う刑事裁判の争点について解説します。

2018年当時の「準強制性交等罪」とは

2018年当時の刑法は、人の心神喪失や抗拒不能に乗じ、またはそのような状態にさせて性交等をした場合を、準強制性交等罪として処罰していました。

ここでいう心神喪失・抗拒不能は、刑事責任能力の場面とは意味が異なります。飲酒、睡眠、薬物の影響などによって、性的行為について正常な判断をすることができない状態や、抵抗することが著しく困難な状態などが問題となります。

ただし、相手が酒を飲んでいたというだけで、直ちに準強制性交等罪が成立するわけではありません。

相手が実際にどの程度酔っていたのか、その状態が心神喪失・抗拒不能と評価できるものだったのか、行為者がその状態を認識して利用したといえるのかなどを、具体的な証拠に基づいて判断する必要があります。

現在の不同意性交等罪との違い

2023年7月13日に施行された改正刑法では、強制性交等罪と準強制性交等罪が「不同意性交等罪」として再構成されました。

現在の刑法では、暴行・脅迫、アルコールや薬物の影響、睡眠、恐怖・驚愕、立場による影響力など、法律に掲げられた行為・事情によって、相手が「同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態」にさせられ、またはそのような状態にあることに乗じて性交等をした場合などが処罰の対象となります。

旧法の心神喪失・抗拒不能という表現に代わり、どのような状態が処罰対象となるのかを、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うできたかという観点から捉える枠組みになったものです。

もっとも、現在も「相手が後から同意していなかったと述べた」ということだけで、機械的に不同意性交等罪が成立するわけではありません。事件当時の具体的な状態、当事者間のやり取り、行為者の認識などを総合的に検討します。

本件については、行為があったとされる2018年当時の法律に基づいて審理されるため、現在の不同意性交等罪がそのまま適用される事件ではありません。

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飲酒が関係する事件では何が証拠になるのか

飲酒が関係する性犯罪では、当事者の供述だけでなく、事件前後の客観的な証拠が重要になります。

例えば、次のような資料が考えられます。

・飲食店での飲酒量や滞在時間
・一緒にいた人の証言
・防犯カメラやタクシーの記録
・LINE、SNS、通話履歴
・スマートフォンの位置情報
・事件直後に相談した相手とのやり取り
・診療記録や被害申告までの経緯

飲酒量だけでなく、会話や歩行ができたか、どの程度意識が明瞭だったかなども検討対象になります。

一方、事件後に通常どおりの連絡があったという事情だけで、事件当時の同意が当然に証明されるわけでもありません。個々の証拠を切り離さず、事件前後の経緯全体から判断する必要があります。

性犯罪を否認する場合の刑事裁判の争点

報道によれば、北川被告側は「同意があったと誤信していた」と主張する方針を示しています。

このような事件では、主に、

・相手が心神喪失・抗拒不能の状態にあったか
・被告人がその状態を認識していたか
・同意があると考えたとの説明が信用できるか
・被害を訴える側と被告人側の供述が、客観的証拠と整合するか

などが争点になります。

性犯罪では、密室で当事者以外の目撃者がいないことも少なくありません。しかし、目撃者がいないから無罪になるわけでも、被害申告があれば直ちに有罪になるわけでもありません。

供述内容が具体的で一貫しているか、不自然な変化がないか、LINEや防犯カメラなどの客観的証拠と符合するかといった事情を積み重ねて判断します。被害申告までに時間がかかったことだけを理由に、供述の信用性が当然に否定されるものでもありません。

また、事実関係を争う可能性がある場合には、LINE、SNS、位置情報、利用履歴などを削除・編集せず、早い段階で保存することが重要です。相手方へ直接連絡すると、働きかけや証拠隠滅を疑われるおそれもあります。

認めて示談を進める事件と、事実関係を争う事件とでは、必要な弁護活動が大きく異なります。警察での供述を始める前に、認める部分、争う部分、記憶が曖昧な部分を整理しなければなりません。

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検察審査会は何を審査するのか

今回報道されている検察審査会への申立ては、北川被告の準強制性交等事件そのものとは別の問題です。

事件をめぐって、別の副検事が被害情報を周囲に伝えたなどとして告訴・告発されましたが、2025年3月に不起訴処分となりました。被害を訴える女性側は、この不起訴処分について検察審査会へ審査を申し立て、「起訴相当」の議決を求めています。

検察審査会は、選挙権を有する国民からくじで選ばれた11人の審査員が、検察官の不起訴処分が相当だったかを審査する制度です。

起訴相当の議決には11人中8人以上の賛成が必要です。起訴相当となれば、検察官が改めて捜査し、起訴・不起訴を判断します。それでも再び不起訴となった場合などには、検察審査会が第二段階の審査を行い、さらに起訴議決がされると、裁判所が指定した弁護士によって強制起訴されます。

したがって、最初の起訴相当議決だけで直ちに強制起訴されるわけではありません。

まとめ

本件は、2018年当時の準強制性交等罪と、現在の不同意性交等罪との違いを考えるうえで重要な論点を含んでいます。

また、性犯罪事件では、事実を認めて被害者への謝罪・示談を進める事件だけでなく、行為の有無、相手の状態、同意についての認識などを争う事件もあります。否認事件では、初期段階から客観的な資料を保存し、一貫した方針で対応することが特に重要です。

北川被告の刑事裁判は現在も審理中であり、裁判所がどのような事実を認定するかは明らかになっていません。今後の公判の推移を慎重に見守る必要があります。

※本記事は2026年9月2日時点で公表されている報道、法令及び裁判所の制度説明をもとに、刑事法上の一般論を解説したものです。北川健太郎被告について有罪判決が確定したものではなく、本記事が公判で争われている事実の真偽や、関係者の刑事責任を判断するものではありません。

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