【弁護士の視点】デヴィ夫人に罰金20万円求刑|なぜ公開の刑事裁判に?
目次
はじめに
元マネージャーらに対する2件の暴行罪に問われている、タレントの「デヴィ夫人」ことデヴィ・スカルノ被告(86)の公判が、2026年9月8日、東京地方裁判所で開かれ、検察側は罰金20万円を求刑しました。
起訴されているのは、2025年2月、東京都内の飲食店で自身の事務所の女性従業員に、おしぼりやシャンパングラスを投げ付けたとされる事件と、同年10月、動物病院で当時の女性マネージャーの胸や腹を殴るなどしたとされる事件です。
報道によると、デヴィ被告側は起訴内容の一部を認める一方、シャンパングラスを投げたことや、動物病院での暴行の具体的な態様については、記憶が曖昧である、あるいは事実と異なる旨を述べています。
判決は10月6日に言い渡される予定です。
今回のニュースで印象的なのは、罰金20万円という求刑額だけではありません。罰金刑が想定される事件でありながら、書面だけで処理する略式手続ではなく、東京地裁の公開法廷で正式な刑事裁判が行われている点です。
本稿では、なぜ罰金刑が見込まれる事件でも正式裁判になることがあるのか、略式手続との違い、罰金刑と前科の関係について解説します。
罰金事件はすべて公開の裁判になるわけではない
刑事事件で検察官が罰金刑を相当と考えた場合、すべての事件について公開の法廷が開かれるわけではありません。
100万円以下の罰金が想定されるような比較的軽微で、かつ、犯罪事実に大きな争いがない事件では、多くの場合「略式起訴」と呼ばれる手続が利用されます。
略式手続では、検察官が簡易裁判所に略式命令を請求し、裁判官が捜査記録などの書面を審査して、100万円以下の罰金または科料を科します。通常の公判のように、被告人が公開の法廷へ出廷して証拠調べや被告人質問を受けることはありません。
もっとも、検察官が一方的に略式手続を選べるわけではありません。
検察官は、被疑者に対して略式手続の内容を説明し、通常の裁判を受けることができることを告げたうえで、略式手続によることに異議がないかを確認する必要があります。被疑者が異議のない旨を書面で明らかにしなければ、略式命令を請求することはできません。
関連記事 略式起訴とは?略式命令を受けた場合のメリット・デメリットと正式裁判との違い
なぜ罰金求刑なのに正式裁判が開かれている?
今回、検察官は罰金20万円を求刑しています。それにもかかわらず、事件は略式手続ではなく、東京地方裁判所の公開法廷で審理されています。
その理由は、公表されている報道だけからは断定できません。
一般論としては、次のような場合に、最終的に罰金刑が見込まれる事件でも正式裁判が行われることがあります。
・被告人が略式手続に異議のない旨を示していない
・犯罪事実の全部または一部を争っている
・証人尋問や被告人質問など、公判での証拠調べが必要と判断された
・事件の件数、内容その他の事情から、検察官が正式裁判を求めた
略式手続は、公開法廷で十分な証拠調べを行う制度ではありません。そのため、被疑者が「その行為はしていない」「起訴されている内容の一部が事実と違う」と主張している事件は、略式手続になじみにくいといえます。
本件でも、デヴィ被告側は、シャンパングラスを投げたことや暴行の具体的な態様について、一部を争っていると報じられています。
これが正式裁判になった直接の理由かどうかは確認できませんが、事実関係に争いがあることは、公開法廷で証拠を調べる必要性につながり得ます。
正式裁判でも罰金刑が求刑されることはある
一般的には、正式裁判になった以上、検察官は拘禁刑を求刑し、執行猶予となるか実刑になるかという点に関心が向かう場合が多いのは事実です。
しかし、正式裁判であっても、検察官が罰金刑を求刑することは可能です。
正式裁判と略式手続の違いは、単純に刑罰が重いか軽いかということではありません。主な違いは、公開の法廷で証拠調べを行うか、書面審査だけで処理するかという手続の違いです。
正式裁判では、裁判官の面前で、
・検察官による起訴状の朗読
・被告人による認否
・検察官と弁護人による証拠請求
・証人尋問や被告人質問
・検察官の論告・求刑
・弁護人の最終弁論
・被告人の最終陳述
などが行われます。
その審理の状況から判断して、検察官が拘禁刑ではなく罰金刑を求刑することが相当と判断することもあります。
罰金20万円の「求刑」は判決ではない
求刑とは、証拠調べが終わった後、検察官が裁判所に対して「このような刑を科すのが相当である」と意見を述べることです。
今回、検察官は罰金20万円を求めましたが、現時点(9/9)で罰金20万円の刑が決まったわけではありません。
被告人が有罪か無罪か、有罪の場合にどのような刑を科すかを決めるのは裁判所です。裁判所は検察官の求刑に法的に拘束されません。
今後の判決では、
・起訴された2件の暴行が認定できるか
・一部争われている暴行の態様をどのように認定するか
・事件の経緯や暴行の程度
・被告人の供述や反省の状況
・事件後に受けた社会的影響
などを踏まえて、裁判所が判断することになります。
罰金刑でも前科になる?
今後、裁判所が罰金刑を言い渡し、その判決が確定した場合には、一般に前科が付くことになります。
「前科」について法律上の統一的な定義が置かれているわけではありませんが、一般には、刑事裁判で有罪判決を受け、その裁判が確定した経歴をいいます。
そのため、刑務所に収容される拘禁刑だけでなく、罰金刑についても、有罪裁判が確定すれば前科になります。
これは、正式裁判で罰金判決を受けた場合も、略式命令による罰金刑が確定した場合も同じです。
一方、交通反則通告制度に基づく反則金、行政上の過料、民事上の損害賠償金や示談金は、刑事罰としての罰金とは異なります。これらを支払ったことだけで、罰金刑の前科が付くわけではありません。
なお、前科は通常、戸籍や住民票へ記載されるものではなく、一般の企業が自由に照会できる制度もありません。ただし、一定の資格や職業、海外渡航などとの関係で影響が生じる場合があります。
暴行罪と傷害罪は何が違う?
今回、デヴィ被告が起訴されている罪名は、傷害罪ではなく暴行罪です。
暴行罪は、相手に対して暴行を加えたものの、傷害を負わせるまでには至らなかった場合に成立する犯罪です。
殴る、蹴るといった行為だけでなく、具体的な状況によっては、相手に物を投げ付ける、強く押す、液体をかけるといった行為も暴行に当たり得ます。
これに対して、暴行によって相手に打撲、裂傷、骨折などのけがを負わせた場合には、傷害罪が問題になります。
大まかには、
・暴行を加えたが、けがをさせていない場合は暴行罪
・暴行によって、けがをさせた場合は傷害罪
という違いです。
ただし、目立った外傷がなくても、身体の生理的機能に障害を生じさせた場合などには、傷害と評価されることがあります。
まとめ
今回の事件では、検察官が罰金20万円を求刑していますが、略式手続ではなく、東京地方裁判所の公開法廷で正式裁判が行われています。
罰金刑が想定される事件の多くは略式手続で処理されますが、略式手続を行うには、被疑者が異議のない旨を書面で明らかにすることが必要です。
事実関係に争いがある場合などには、最終的に罰金刑が見込まれていても、今回のように正式裁判で証拠を調べることがあります。
今後、裁判所が罰金刑を言い渡し、その判決が確定すれば、略式命令の場合と同様に前科になります。
判決は2026年10月6日に言い渡される予定です。起訴内容の一部についてどのような事実が認定され、どのような刑が言い渡されるかが注目されます。
※本記事は2026年9月9日時点で公表されている報道及び法令をもとに、刑事法上の一般論を解説したものです。デヴィ・スカルノ被告について現時点で有罪判決が確定したものではなく、本記事が起訴されている各行為の真偽や刑事責任を判断するものではありません。また、本件が正式裁判となった具体的な理由は公表されておらず、記事中の説明は一般的な刑事手続に関するものです。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属。登録番号52401)
原綜合法律事務所(福岡)のご案内
