【弁護士の視点】YouTuber「KENZO 新宿109」を名誉毀損容疑で逮捕
目次
はじめに
YouTuber「KENZO 新宿109」として活動する池田実貴容疑者(28)が、2026年10月14日、京都府警に名誉毀損の疑いで逮捕されたと報じられました。
報道によると、2025年6月、京都市の不動産会社元代表の男性について、画像やテロップを使い、詐欺師であるかのような内容の動画を投稿した疑いが持たれています。男性は動画投稿後の同年7月ごろに亡くなり、母親が刑事告訴していたとされています。池田容疑者は、弁護士と相談してから話すという趣旨の説明をし、認否を留保していると報じられています。
また、別の会社役員2人が恐喝未遂の疑いで逮捕されていますが、確認した報道で池田容疑者自身の逮捕容疑とされているのは名誉毀損です。それぞれの容疑や関与は区別する必要があります。逮捕によって犯罪事実や有罪が確定したわけではありません。
今回の報道について、「詐欺被害を防ぐための告発でも犯罪になるのか」「『詐欺師か?』という疑問形なら問題ないのではないか」と疑問を持つ方もいるでしょう。本稿では、SNSや動画による告発と名誉毀損罪の関係、投稿内容を争う場合の対応、示談と告訴取消しによる不起訴・前科回避について解説します。
「詐欺師」と公表すると、名誉毀損罪になる?
刑法230条1項は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合について、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金を定めています。
ここでいう「公然」とは、不特定又は多数の人が認識できる状態をいいます。誰でも閲覧できるYouTube動画やSNSの公開投稿は、一般にこの要件を満たしやすいものです。また、保護される「名誉」は、本人が傷ついたという感情だけを意味するものではなく、社会から受ける客観的な評価を指します。
特定の人物について、他人をだまして金銭を得たなどの具体的な行為を示し、「詐欺師」と公表することは、その人の社会的評価を低下させる内容となり得ます。氏名を伏せていても、顔写真、勤務先、役職、過去の出来事などから誰のことか分かる場合には、名誉毀損の問題は残ります。反対に、「詐欺師」という言葉だけを抜き出して、常に同じ犯罪が成立すると判断できるわけでもありません。
刑法上の「事実の摘示」は、「本当のことを述べる」という意味ではありません。 証拠によって真偽を確かめられるような具体的な事柄を示すことをいい、その内容が真実かどうかは、別の段階で問題になります。
具体的な事実を示さずに悪口を述べた場合には、名誉毀損罪ではなく侮辱罪が問題になることもあります。どの犯罪に当たるかは、実際の表現と文脈を確認して判断します。
「詐欺師か?」という疑問形なら、名誉毀損を避けられる?
報道では、問題となった動画に「巨額M&A詐欺師か」という趣旨のテロップがあったとされています。
しかし、語尾を疑問形にしたり、「疑惑」「個人の感想です」と付けたりすれば、それだけで名誉毀損を避けられるわけではありません。
重要なのは、動画や投稿を見た人が、全体としてどのような意味に受け取るかです。
例えば、タイトルに疑問符があっても、動画内で特定の人物が詐欺行為をしたと繰り返し説明し、画像や字幕によってその印象を強めていれば、犯罪行為をしたという事実を示す表現と評価される可能性があります。
反対に、確認できた事実と未確認の情報を分け、相手方の説明も紹介しながら検証する内容であれば、表現の意味や公益目的を検討する事情になります。
具体的には、次のような部分を一体として確認します。
- 動画のタイトルとサムネイル
- 映像内の発言、字幕、テロップ
- 顔写真や会社名など、対象者を示す情報
- 前後の説明や、関連する投稿
- 疑問を提示しているのか、実質的に結論を断定しているのか
疑問形のタイトルがあることだけで適法とも違法とも決まりません。本件についても、報道で紹介された一部の文言だけでなく、動画全体と根拠資料を確認する必要があります。
社会正義や詐欺被害の告発が目的なら、許される?
不正行為を告発し、被害の拡大を防ぐ言論には社会的な意義があります。名誉毀損罪も、公共的な問題についての正当な批判や告発を一律に禁じるものではありません。
刑法230条の2第1項は、次の条件を満たす場合には処罰しないと定めています。
- 公共の利害に関する事実に関係すること
- 目的が専ら公益を図ることにあったと認められること
- 摘示した事実が真実であると証明されること
さらに、同条2項は、まだ起訴されていない人の犯罪行為に関する事実を、公共の利害に関する事実とみなしています。犯罪の疑いを社会に知らせる行為について、法律も公共性を認める仕組みを設けています。
ただし、公共性があることと、ほかの要件も満たすことは同じではありません。「詐欺を告発する動画だから問題ない」と判断するのではなく、公益目的と内容を裏付ける証拠まで確認する必要があります。例えば、金銭の返還が遅れているという事実があっても、それだけで最初からだます意思があったと認定できるとは限りません。契約上の紛争や経営の失敗を、そのまま詐欺と結び付けていないかが問題になります。
また、公益目的は、投稿者が「被害者を救いたかった」と説明したことだけで決まるものではありません。取材や投稿の経緯、内容、表現方法、当事者との関係なども含めて検討されます。
本件の動画について公共性・公益目的・真実性が認められるかは、今後の捜査や刑事手続で検討される問題です。
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「本当だと信じていた」場合は、どうなる?
公共性・公益目的が認められる場合、告発内容が最終的に真実だと証明できなくても、確実な資料や根拠に照らして真実だと信じたことに相当な理由があれば、名誉毀損罪の故意が否定される場合があります。
もっとも、自分では本当だと思っていたという主観だけではなく、その認識を支える確実な資料や根拠が重要になります。
最高裁は、2010年3月15日の決定で、インターネットの個人利用者による投稿でも、真実と信じた相当な理由について、ほかの表現手段より緩やかな基準を採用することはできないと判断しています。その事件では、一方的な立場で作成された資料が含まれていたことや、資料の理解が不正確だったこと、相手方に事実関係を確認していなかったことなどが検討されました。
この判断を踏まえると、告発動画を作る際には、情報提供者の説明をそのまま採用せず、契約書、送金記録、当事者間のやり取りなどと照らし合わせることが重要です。情報提供者と相手方の間に紛争がある場合には、説明が一方の立場に偏っていないかも確認する必要があります。相手方が取材に応じなかったという事情だけで、告発内容が真実であると確認されたことにはなりません。個人のYouTuberやSNS利用者であっても、発信する内容の重大さに応じた確認が求められます。
「弁護士と話してから話す」という対応には、どのような意味がある?
池田容疑者は、弁護士と相談してから話すという趣旨の説明をし、認否を留保していると報じられています。
認否の留保は、容疑を認めたこととも、全面的に否認したこととも異なります。それ自体を犯罪の成立を裏付ける事情として扱うことは適切ではありません。被疑者には黙秘権があり、弁護士と相談したうえで取調べへの対応を検討することができます。
名誉毀損事件では、投稿した事実を認めるかという点と、投稿内容が真実か、公益目的があったか、犯罪が成立するかという点は別の問題です。
そのため、一般論としてですが、弁護士は、問題とされている表現、投稿の経緯、確認した資料、本人の認識などを整理します。逮捕されている場合には、早期に接見し、供述への助言とともに、身柄の解放に向けた活動も進めます。
名誉毀損事件では、示談と告訴の取消しが不起訴につながる
親告罪では、告訴の取扱いが特に重要になる
名誉毀損罪は、刑法232条により、告訴がなければ起訴できない「親告罪」とされています。
起訴前の被害者がいる事件では、示談は不起訴・前科回避に向けた重要な対応です。当事務所の実務経験でも、起訴前に示談が成立した事件は、高い確率で不起訴処分につながっています。
名誉毀損事件では、それに加えて、告訴の取消しという明確な法的効果があります。刑事訴訟法237条は、告訴を起訴前まで取り消すことができると定めています。示談に伴って告訴が起訴前に有効に取り消され、起訴に必要な告訴がなくなれば、その名誉毀損事件について検察官は起訴できなくなります。 示談と告訴の取消しを進めることが、不起訴による前科回避に直結するのです。
そのため、謝罪や賠償金の支払いだけでなく、告訴をどう扱うかまで明確にしたうえで合意をまとめることが重要です。
動画の削除・訂正や再投稿の防止も、示談の重要な内容になる
SNSや動画による名誉毀損では、被害を受けた側が、金銭の支払いだけでなく、投稿の削除や名誉の回復を求めることがあります。
示談交渉では、具体的な事情に応じて、次のような内容を検討します。
- 問題となった動画や投稿の削除・非公開化
- 誤った説明の訂正や謝罪の方法
- 賠償金の支払い
- 同じ内容を再び投稿しないこと
- 告訴の取消しと、その書類の提出
- 民事上の請求関係の清算
示談書の作成から、合意内容の実行、告訴取消書の提出までを確実に進めることが大切です。
相手方に直接連絡すると、さらに負担を与えたり、交渉がこじれたりすることもあります。弁護士が窓口となり、相手方が何を求めているのかを確認しながら解決を図ります。
なお、本件では母親が告訴したと報じられています。刑事訴訟法には、名誉毀損の被害者が告訴せずに亡くなった場合、親族等が告訴できる規定があります。被害者が亡くなった事件では、告訴をした人と、民事上の請求権を持つ人の範囲も確認して対応します。
刑事事件と、遺族による損害賠償請求はどう違う?
10月15日には、男性の母親が、動画投稿などが息子の自殺につながったと主張し、池田容疑者ら3人に対して約2億3000万円の損害賠償を求める訴訟を京都地方裁判所に提起したと報じられました。
刑事事件では、名誉毀損罪が成立し、刑罰を科すべきかが問題になります。被害者の死亡結果は量刑上意味を持つことがありますが、必ずしも罪の成立に必須ではありません。
これに対し、民事訴訟では、違法な行為によってどのような損害が生じたのか、その損害との因果関係や賠償額などが重要な争点として検討されます。
また、不起訴や告訴の取消しによって、民事上の請求関係まで自動的に解決するわけではありません。示談では、刑事告訴の取扱いとあわせて、民事上の紛争をどこまで解決するのかを明確にすることが重要です。
SNS投稿で刑事告訴されたら、早い段階で対応方針を整理する
名誉毀損の容疑で逮捕・書類送検されただけでは、前科は付きません。起訴後に有罪の裁判が確定すれば、罰金刑であっても前科となります。前科を避けるには、起訴前の対応が重要です。
投稿内容の真実性や公益目的を争う場合には、公開した動画だけでなく、編集前の映像、取材メモ、情報提供者とのやり取り、確認した資料などを保存します。公開を続けることと、証拠として記録を保存することは別です。被害拡大を防ぐための削除・非公開化を検討する場合も、元データや投稿時の内容を確保し、弁護士と対応を整理します。
示談による解決を図る場合には、相手方の被害と希望を確認し、謝罪、訂正、賠償、告訴の取消しを具体的に進めます。犯罪の成立を争う場合でも、どの事実を認め、何を争うのかを整理したうえで、民事的な解決を検討することがあります。
原綜合法律事務所では、投稿内容と根拠資料の確認から、取調べへの対応、示談交渉、告訴の取消しに向けた調整まで、事件の状況に応じた弁護活動を行っています。
※本記事は、2026年10月16日時点で確認できる報道及び法令・裁判例をもとに、刑事法上の一般論を解説したものです。池田実貴容疑者は認否を留保していると報じられており、本記事が投稿内容の真偽、犯罪の成立、男性の死亡との因果関係を判断するものではありません。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属。登録番号52401)
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