【弁護士の視点】元ソフトバンク・宮地克彦容疑者を逮捕|「わいせつな目的はなかった」
目次
はじめに
福岡県警春日署は2026年9月9日、元プロ野球選手の宮地克彦容疑者(55)を、不同意わいせつの疑いで逮捕しました。
報道によると、宮地容疑者は8月17日夜から翌18日朝までの間、大野城市の自宅で、知人の20代女性にキスをしたり、下着の中に手を入れて身体を触ったりした疑いを持たれています。
宮地容疑者は、警察の取調べに対して「結果としてわいせつな行為かもしれないが、決してわいせつな目的はなかった」などと述べ、容疑を否認していると報じられています。行為の一部についても争っているとの報道があります。
宮地容疑者は、西武ライオンズ、福岡ダイエーホークス、福岡ソフトバンクホークスなどでプレーし、2005年には外野手としてベストナインに選ばれました。その後は指導者となり、逮捕時には女子硬式野球チーム「九州ハニーズ」の監督と報じられていましたが、同チームは9月9日に公表した文書で宮地氏を「前監督」と表現しています。
今回の報道で刑事法上注目されるのが、「わいせつな目的はなかった」という供述です。
本人に性的な目的がなければ、不同意わいせつ罪は成立しないのでしょうか。本稿では、2017年の最高裁大法廷判決と現在の不同意わいせつ罪をもとに解説します。
「わいせつな目的」は独立した成立要件ではない
現在の不同意わいせつ罪を定める刑法176条には、「性欲を満足させる目的」や「わいせつな目的」がなければ犯罪にならないとは規定されていません。
したがって、行為者が、
「性的な気持ちはなかった」
「性欲を満たす目的ではなかった」
と説明しただけで、直ちに不同意わいせつ罪の成立が否定されるわけではありません。
刑事法上は、行為者が何を目的としていたかだけでなく、
・実際にどのような行為が行われたか
・その行為が客観的に「わいせつな行為」に当たるか
・相手が同意しない意思を形成、表明または全うすることが困難な状態だったか
・行為者が、そのような事実関係を認識していたか
などが問題になります。
2017年の最高裁大法廷判決とは
かつての最高裁判例は、旧強制わいせつ罪が成立するためには、原則として行為者が自分の性欲を刺激・興奮させ、または満足させるという「性的意図」が必要であるとしていました。
しかし、最高裁大法廷は2017年11月29日の判決で、この考え方を変更しました。
最高裁は、被害者が受けた性的被害の有無や内容、程度に目を向けるべきであり、行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でないと判断しました。
つまり、
行為者自身の性欲を満たす目的がなければ、わいせつ罪は成立しない
という考え方は、現在では採用されていません。
この判決は改正前の強制わいせつ罪についてのものですが、現在の不同意わいせつ罪にも、性的意図を独立した成立要件とする文言はありません。
そのため、「わいせつな目的ではなかった」という説明だけで、犯罪が成立しないことにはなりません。
行為者の目的が全く考慮されないわけではない
もっとも、最高裁は、行為者の目的が一切考慮されないと判断したわけではありません。
行為そのものの性的性質が明確でない場合には、行為が行われた具体的な状況や、行為者の目的なども考慮して、その行為に性的な意味があるかを判断することがあります。
例えば、身体へ触れる行為であっても、
・医療行為として行われた
・介護や救助のために行われた
・偶然、身体が接触した
・性的な意味を持つ形で意図的に触れた
という場合では、法的評価が異なります。
したがって、「目的は一切関係ない」という説明も正確ではありません。
重要なのは、性的目的の有無だけを切り離して判断するのではなく、行為の内容、身体の部位、接触方法、当事者の関係、前後の言動などから、客観的にわいせつな行為と評価できるかを判断することです。
今回報じられているキスや下着の中に手を入れて身体へ触れたという行為が実際にあったか、その行為がどのような状況で行われたかは、今後の捜査によって判断される問題です。
「目的」と「故意」は別の問題
本件を考えるうえでは、「わいせつな目的」と犯罪成立に必要な「故意」を区別する必要があります。
「わいせつな目的」とは、性欲を満たすなど、なぜその行為をしたのかという動機・目的の問題です。
これに対し、故意とは、犯罪を構成する事実を認識しながら行為したといえるかという問題です。
性欲を満たす目的がなくても、相手に対して意図的に、客観的にわいせつと評価される行為を行い、不同意わいせつ罪を構成する事情について認識があったと認定されれば、犯罪が成立する可能性があります。
反対に、
・報道されている行為自体をしていない
・偶然または不可抗力で接触した
・実際の接触方法が相手の説明と異なる
・相手が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態ではなかった
・そのような状態にあることを認識していなかった
という主張は、「性的な目的がなかった」という主張とは別の争点です。
したがって、報道された供述の一部分だけを見て、宮地容疑者が何を認め、何を争っているのかを判断することはできません。
不同意わいせつ罪では何が立証される必要がある?
2023年7月に施行された改正刑法では、従来の強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が、不同意わいせつ罪として再構成されました。
現在の刑法176条では、暴行・脅迫、心身の障害、アルコールや薬物、睡眠、突然の出来事による恐怖・驚き、立場による影響力などの事情により、相手が「同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態」になった場合などに、わいせつな行為をすることが処罰対象とされています。
そのため、不同意わいせつ事件では、単に、
「被害を訴える人が同意していなかったと言っている」
「被疑者が同意があったと言っている」
という二つの供述だけで機械的に結論が決まるわけではありません。
具体的には、
・当事者がどのような関係にあったか
・自宅へ行くことになった経緯
・事件前後にどのような会話があったか
・飲酒の有無や程度
・どのような順序で身体への接触があったか
・拒否や同意に関する言動があったか
・事件後にどのような連絡を取っていたか
などが検討されます。
本件で刑法176条が定めるどの事情が問題とされているのかは、現時点の報道からは明らかではありません。今後、双方の供述や客観的証拠を踏まえて捜査されることになります。
否認事件では客観的証拠の確認が重要
不同意わいせつ事件では、事件当時に第三者が立ち会っておらず、当事者双方の供述が大きく異なることがあります。
その場合には、
・LINEやSNSのメッセージ
・通話履歴
・写真や動画
・スマートフォンの位置情報
・店舗や交通機関の利用記録
・事件前後の行動
・当日の状況を知る第三者
などが重要な資料になる可能性があります。
都合が悪いと思われる内容であっても、自分の判断でメッセージやデータを削除・編集してはいけません。証拠を失うだけでなく、証拠隠滅を疑われるおそれがあります。
また、取調べでは、
・行為自体を否定するのか
・接触したことは認めるが、態様を争うのか
・同意があったと考えているのか
・不同意の状態について認識がなかったと主張するのか
・性的目的だけを否定しているのか
を区別することが重要です。
否認している事件では示談を急ぐべき?
一般に、事実を認める事件では、被害者への謝罪と被害回復を図るため、早期に示談交渉を検討することがあります。
一方、
・行為そのものをしていない
・行為の態様が申告内容と異なる
・同意があった
・犯罪の故意がなかった
と争う事件では、安易に事実を認めたり、弁護方針と矛盾する内容で示談したりすることは適切ではありません。
まず客観的な証拠と双方の供述を確認し、認める事実と争う事実を整理したうえで、弁護方針を決める必要があります。
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まとめ
「わいせつな目的がなかった」という説明だけで、不同意わいせつ罪の成立が当然に否定されるわけではありません。
また、「性的な目的がなかった」という主張と、「行為自体をしていない」「相手の説明する態様とは異なる」「同意があった」「不同意の状態を認識していなかった」という主張は、それぞれ異なる争点です。
宮地容疑者については、現在も捜査中であり、犯罪事実や刑事責任が確定したものではありません。報道された供述の一部分だけで判断せず、今後の捜査と刑事手続を慎重に見守る必要があります。
※本記事は2026年9月9日時点で公表されている報道、法令及び最高裁判例をもとに、刑事法上の一般論を解説したものです。宮地克彦容疑者について有罪判決が確定したものではなく、本記事が報道されている容疑の真偽や刑事責任を判断するものではありません。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属。登録番号52401)
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