【弁護士の視点】全仏優勝・平木理化容疑者が3回目の逮捕|再逮捕・処分保留とSNS型詐欺の共犯責任
目次
はじめに
1997年の全仏オープン混合ダブルスで優勝した元プロテニス選手・平木理化容疑者(54)が、2026年9月2日、石川県の60代女性から現金約256万円をだまし取った疑いで再逮捕されました。平木容疑者が逮捕されたのは、今回で3回目と報じられています。
報道によると、女性は2022年4月、アメリカ人の軍人を名乗る人物から、荷物を送るための手数料などを立て替えるよう求められました。女性が指定された口座に振り込もうとしたところ、口座が凍結されていたため送金できず、その後、現金約256万円を「ゆうパック」で送りました。平木容疑者は翌日、千葉県白井市内の郵便局で現金入りの荷物を受け取り、そのうち約246万円を暗号資産で第三者に送った疑いが持たれています。
平木容疑者は「心当たりがありません」と述べ、容疑を否認していると報じられています。
平木容疑者は、2026年7月にも鹿児島市の女性から30万円をだまし取った疑いで逮捕され、同年8月12日には、山梨県の当時70代の女性から約140万円をだまし取ろうとした疑いで再逮捕されています。検察は、これら先行する2事件をいずれも処分保留としていると報じられています。
本稿では今回の報道をきっかけに、SNS型詐欺で現金の受取や送金を担当した人の刑事責任、再逮捕、処分保留、否認事件の弁護について解説します。
被害者を直接だましていなくても詐欺罪になる?
特殊詐欺やSNS型詐欺では、一人がすべての行為を担当するとは限りません。
被害者へメッセージを送って金銭を要求する者、口座や送付先を用意する者、現金を受け取る者、回収した金銭を送金する者など、複数の人物が役割を分担する場合があります。
自分自身は被害者にうその説明をしていなくても、詐欺であることを認識しながら、計画の一部として現金の受取や送金を担当した場合には、詐欺罪の共同正犯が成立する可能性があります。役割や関与の程度によっては、幇助犯が問題になることもあります。
一方、他人の依頼で荷物を受け取ったり送金したりしたという事実だけで、直ちに詐欺罪が成立するわけではありません。詐欺罪の成立には、少なくとも、自分が詐欺に関与していることについての認識が必要です。
そのため、本人が「詐欺とは知らなかった」と争う事件では、現金を受け取った事実だけでなく、
・誰から、どのような説明を受けていたのか
・受取や送金の指示が不自然ではなかったか
・報酬を受け取っていたか
・指示者とどのような連絡をしていたか
・同様の取引を繰り返していたか
・詐欺の可能性を認識しながら関与したといえるか
などが重要になります。
今回報道されている荷物の受取や暗号資産の送付についても、その事実自体や、平木容疑者が詐欺であることを認識していたかは、今後の捜査・刑事手続によって判断される問題です。
特殊詐欺で受け子・出し子として関与した場合の刑事責任や、「犯罪とは知らなかった」と主張する場合の問題については、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事 闇バイトで逮捕された場合の弁護活動|受け子・出し子のリスク【弁護士解説】
「3回目の逮捕」はどういう意味か
逮捕には、被疑者を処罰するという意味はありません。捜査のために身柄を拘束する必要性があるかを、裁判官が令状審査によって判断する手続です。
刑事手続では、同じ犯罪事実について逮捕・勾留を繰り返すことは原則として認められません。一般に「一罪一逮捕一勾留の原則」と呼ばれています。
もっとも、別の被害者に対する別の詐欺行為など、それぞれが異なる犯罪事実であれば、先の事件に続いて別事件で逮捕されることがあります。これが報道で「再逮捕」と呼ばれているものです。
今回報道されている3事件は、被害者、被害額、行為の時期や内容が異なるとされています。そのため、1件目、2件目とは別の犯罪事実について、3回目の逮捕が行われたと考えられます。
ただし、逮捕が3回行われたことから、3件の犯罪が認定されたことになるわけではありません。それぞれの事件について、詐欺の故意や共謀を裏付ける証拠があるかが別々に検討されます。
家族が逮捕された場合の初動や、逮捕後の手続については、以下のページで説明しています。
再逮捕されると身柄拘束が長期化することがある
一つの事件について逮捕された場合、警察は原則として逮捕から48時間以内に被疑者を検察官へ送致し、検察官は原則として受領から24時間以内に、勾留を請求するか釈放するかを判断します。
裁判官が勾留を認めた場合、勾留期間は原則10日間で、必要があると認められれば、さらに最長10日間延長されることがあります。
その後に別事件で再逮捕されると、その別事件についても逮捕・勾留の手続が進むため、全体として身柄拘束が長期化する場合があります。
もっとも、別事件があれば無条件に再逮捕が認められるわけではありません。各事件について、犯罪の嫌疑、逮捕の必要性、逃亡や証拠隠滅のおそれなどが審査されます。
弁護人としても、事件ごとに勾留の必要性を争い、家族による監督、住居の確保、関係者へ接触しないことなどを具体的に示して、身柄の早期解放を求めることになります。
「処分保留」は不起訴ではない
処分保留とは、検察官が、その時点では起訴するか不起訴にするかの最終判断をしていない状態をいいます。
勾留期限が来たからといって、必ずその時点で起訴または不起訴の最終処分をしなければならないわけではありません。検察官が捜査を継続するため、処分を保留したまま被疑者を釈放することもあれば、別事件による身柄拘束が続いている間に、先行事件の処分を保留することもあります。
したがって、
・処分保留=不起訴
・処分保留=嫌疑がなくなった
・処分保留=事件が終了した
という意味ではありません。
その後の捜査結果によって、起訴されることも、不起訴になることもあります。複数の事件について捜査が行われている場合には、証拠関係をまとめて検討したうえで、各事件の処分が判断されることもあります。
一方、不起訴処分になれば、その事件について刑事裁判は開かれず、有罪判決を受けることもないため、前科は付きません。処分保留と不起訴は、明確に区別する必要があります。
「詐欺だとは知らなかった」と否認する場合
現金の受取や送金を行ったこと自体は争わず、「詐欺によるお金だとは知らなかった」と主張する事件では、詐欺の故意や共謀が中心的な争点になります。
捜査機関は、スマートフォンのメッセージ、通話履歴、送金記録、暗号資産口座、荷物の送り状、報酬の有無、同種行為への関与などを調べます。
被疑者側でも、
・指示者とのやり取り
・依頼を受けた経緯
・受取や送金の目的について受けた説明
・自分が得た報酬や利益
・詐欺を疑うきっかけがあったか
・複数の取引にどのように関与したか
を具体的に整理する必要があります。
都合が悪いと思われるメッセージであっても、自分の判断で削除・編集してはいけません。証拠を失うだけでなく、証拠隠滅を疑われるおそれがあります。
また、記憶が曖昧な部分について、取調べで推測を交えて説明すると、その内容が供述調書に記載され、その後の弁解と矛盾する場合があります。何を認め、何を争い、何を覚えていないのかを区別し、一貫した方針で対応することが重要です。
関連記事 【否認事件・不起訴】性犯罪の疑いを一貫して争い、逮捕されないまま不起訴となったケース
複数の事件では対応方針を事件ごとに検討する
複数の事件が捜査対象になっている場合でも、すべてについて同じ対応を取るとは限りません。
事実を認める事件であれば、被害者への謝罪、被害弁償、示談を早期に進めることが、不起訴処分や刑の軽減を求めるうえで重要になります。被害者が複数いる場合には、それぞれについて誠実な被害回復を行う必要があります。
一方、犯罪の故意や関与そのものを争う事件では、安易に事実を認めたり、弁護方針と整合しない形で示談を進めたりすることは適切ではありません。客観的証拠を確認し、事件ごとに認めるべき事実と争うべき事実を整理する必要があります。
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まとめ
平木容疑者については、異なる被害者に関する別事件で3回逮捕されたと報じられています。しかし、逮捕は有罪判決ではなく、過去2事件について報じられている処分保留も、不起訴が確定したことを意味しません。
SNS型詐欺では、被害者を直接だました人物だけでなく、現金の受取や送金を担当した人物も、詐欺であることを認識して関与したと認定されれば、共犯として刑事責任を問われる可能性があります。
反対に、詐欺であることを知らなかったと争う場合には、現金を取り扱ったという事実だけでなく、指示者との連絡、報酬、取引の不自然さ、同種行為への関与などから、故意や共謀が認定できるかが重要になります。
今回を含む各事件は現在も捜査中であり、平木容疑者は容疑を否認しています。今後、起訴・不起訴についてどのような判断がされるかを慎重に見守る必要があります。
※本記事は2026年9月3日時点で公表されている報道及び法令をもとに、刑事法上の一般論を解説したものです。平木理化容疑者について有罪判決が確定したものではなく、本記事が報道されている各容疑の真偽や刑事責任を判断するものではありません。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属。登録番号52401)
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