【弁護士の視点】ヒロシさん「焚き火台騒動」でメーカーが被害届を表明|SNSの「パクリ」投稿は名誉毀損・業務妨害になる?
目次
はじめに
キャンプ芸人として知られるヒロシさんと、アウトドア用品メーカー「笑’s」との間で、焚き火台の製作をめぐるトラブルがSNS上で注目を集めています。
報道によると、笑’sは2026年8月26日、今回のトラブルとは無関係の商品にまで「パクリ」「メーカーとしてアウトな会社」などの書き込みが寄せられ、心ないメールも届いているとして、Xで「被害届を出す事になりました」と表明しました。
もっとも、現時点で確認できるのは、メーカー側が被害届を出す方針を公表したという段階です。警察が被害届を正式に受理したか否かや、特定の投稿者について捜査を開始したかまでは明らかになっていません。
また、メーカー側の投稿は、主として騒動を受けた第三者による書き込みやメールの被害を訴えたものとみられ、ヒロシさん自身を被害届の対象にしたと公表したものでもありません。この点は慎重に区別する必要があります。
「パクリ」と投稿すると名誉毀損罪になる?
刑法230条の名誉毀損罪は、公然と事実を示し、人の社会的評価を低下させた場合に成立する可能性があります。会社などの法人も名誉毀損の被害者になり得ます。
例えば、十分な根拠がないまま、
- 「この会社は他社の商品を盗用している」
- 「他社の設計を無断で使って販売している」
- 「以前からパクリを繰り返している会社だ」
などと、不特定多数が閲覧できるSNSに投稿した場合、具体的な事実を示して会社の社会的評価を低下させたとして、名誉毀損罪が問題となる可能性があります。
一方、「メーカーとしてアウトだ」「最低の会社だ」など、具体的な事実を示さない罵倒や侮蔑的な表現については、侮辱罪が問題となることがあります。
ただし、「パクリ」という言葉だけで直ちに犯罪になるわけではありません。投稿全体の文脈、どのような事実を示したのか、意見や感想にとどまるのか、閲覧範囲、根拠となる資料の有無などから個別に判断されます。
虚偽の投稿による信用毀損罪・業務妨害罪
虚偽の情報を流して会社の信用を害したり、問い合わせや苦情を殺到させて業務を妨害したりした場合には、刑法233条の信用毀損罪・偽計業務妨害罪が問題となる可能性もあります。
例えば、根拠なく「この会社の商品は危険だ」「代金を払っても商品が届かない」などと投稿し、その結果、取引のキャンセルや大量の問い合わせが発生した場合です。
もっとも、商品や企業に対する正当な批判や、実際の購入経験に基づく意見まで当然に犯罪になるわけではありません。刑事責任が問題となるのは、投稿の内容、虚偽性、目的、拡散状況、会社の業務に与えた影響などを総合して、各犯罪の成立要件を満たす場合です。
「本当のことなら名誉毀損にならない」は正確ではない
名誉毀損罪について誤解されやすいのが、「本当のことを書いただけなら犯罪にならない」という点です。
刑法230条は、摘示した事実が真実か虚偽かを問わず、名誉毀損罪が成立し得ると定めています。
もっとも、その事実が公共の利害に関係し、投稿の目的が専ら公益を図ることにあり、真実であることの証明ができた場合には、刑法230条の2により処罰されません。
したがって、単に「自分は本当だと思っている」「他の人も書いている」というだけでは足りません。企業間の契約交渉のように双方の説明が食い違っている段階で、一方の投稿だけを見て「盗用した会社」と断定することには相応の危険があります。
リポストや便乗投稿でも責任を問われる?
問題となる投稿を自分で作成していなくても、コメントを加えて拡散したり、同じ内容を繰り返し投稿したりすれば、内容や態様によっては責任を問われる可能性があります。
リポストしただけで常に犯罪になるわけではありませんが、「自分は書いていないから関係ない」とも言い切れません。元の投稿が削除されても、スクリーンショットや転載によって証拠が残ることもあります。
また、会社へ直接送った一対一のメールは、通常、不特定多数に伝わる「公然性」がないため、直ちに名誉毀損罪や侮辱罪になるとは限りません。しかし、虚偽の内容、送信回数、送信先の範囲、業務への影響などによっては、業務妨害その他の犯罪が問題となる場合があります。
被害届が出された後の流れ
被害届が提出されたからといって、直ちに投稿者が逮捕されるわけではありません。
警察が事件性を認めて捜査を開始した場合には、投稿内容の保存、アカウントや発信者の特定、関係者からの事情聴取などが行われます。その後、在宅事件として捜査され、事件が検察官へ送致されて、起訴・不起訴が判断されることもあります。
なお、名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪であり、起訴するためには被害者の告訴が必要です。「被害届を出す」という発表だけから、告訴の有無や今後の処分まで判断することはできません。
投稿した側はどう対応すべきか
自分の投稿について警察から連絡を受けた場合や、相手から被害届・告訴を検討していると言われた場合には、まず投稿、リポスト、メールなどの記録を保存し、それ以上の投稿や感情的な反論を控えることが重要です。
事実関係や犯罪の成立を争う場合
一方、自分は問題となる投稿をしていない、投稿の意味を誤解されている、記載した内容には根拠があるなど、事実関係や犯罪の成立を争う場合には、安易に非を認めたり、謝罪や示談を急いだりすることが適切とは限りません。
まず、次のような点を整理する必要があります。
- 実際にその投稿をしたのは自分なのか
- アカウントの乗っ取りや第三者による投稿の可能性はないか
- 投稿全体の文脈から、具体的事実の摘示といえるのか、意見や感想にとどまるのか
- 投稿した事実が真実であることを裏付ける資料があるか
- 投稿時にその内容を真実と信じたことについて、確実な資料や根拠があったか
- 投稿が公共の利害に関するもので、公益を図る目的で行われたといえるか
- 不特定多数が閲覧できる状態にあり、「公然性」が認められるのか
- 信用毀損罪・偽計業務妨害罪との関係で、虚偽の風説や業務妨害の故意が認められるのか
このような点を検討するため、問題となった投稿だけでなく、投稿前後のやり取り、引用した記事、写真、動画、契約書、メール、購入履歴など、投稿の根拠や文脈を示す資料を保存しておくことが重要です。自分に不利だと思える資料についても、自己判断で削除・改変してはいけません。
警察の事情聴取を受ける場合には、覚えていないことを推測で答えたり、取調官の説明に合わせて事実と異なる内容を認めたりする必要はありません。作成された供述調書に事実と違う部分があれば訂正を求め、訂正されないまま署名・押印することは避けるべきです。必要に応じて黙秘権を行使することも検討します。
名誉毀損罪などが成立するかどうかは、投稿の一部分だけではなく、前後の文脈や投稿時に保有していた資料を含めて判断されます。事実関係や犯罪の成立を争う場合には、警察へ説明する前に弁護士へ相談し、何を認め、何を争うのかを整理しておくことが重要です。
事実関係を認める場合
問題となる投稿をしたことや、その投稿内容に問題があったことを認める場合には、投稿の削除や訂正、謝罪、損害の回復、示談などを検討します。
被害者がいる事件では、早期に誠実な示談が成立すれば、実務上、不起訴となる可能性はかなり高まります。
ただし、感情的な状態で本人が会社へ直接連絡すると、かえって新たなトラブルになることがあります。連絡方法や謝罪内容についても、事前に弁護士へ相談することをお勧めします。
まとめ
SNSでは、著名人の発信をきっかけに、当事者とは無関係な第三者が企業や個人を強く批判することがあります。
しかし、「多くの人が批判している」「リポストしただけ」という事情が、当然に責任を免れさせるわけではありません。投稿前に情報の確かさを確認し、確認できない事実を断定しないことが重要です。
一方で、企業を批判する投稿をしたからといって、当然に犯罪が成立するわけでもありません。投稿していない、内容が事実である、正当な意見や論評にとどまるなど、争うべき事情がある場合には、安易に事実を認めず、証拠を保存したうえで対応方針を検討する必要があります。
※本稿は2026年8月29日時点で公表されている報道及び関係者の発信を前提に、SNS投稿に関する刑事法上の一般論を解説したものです。ヒロシさん、笑’sその他の関係者について、犯罪の成立や民事上の責任を認定・評価するものではありません。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属。登録番号52401)
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