実刑判決と執行猶予判決の違い|実刑を回避するために弁護士ができること
目次
はじめに
刑事裁判において有罪判決が言い渡される場合、被告人の人生を大きく左右するのが「実刑」になるか「執行猶予」がつくかという問題です。
実刑判決を受ければ、判決確定後に刑務所に収容され、一定期間にわたって社会から隔離されます。仕事、家庭、人間関係——これまで積み上げてきた社会生活の基盤が根底から崩れるおそれがあります。一方、執行猶予付き判決であれば、直ちに刑務所に収容されることなく、社会の中で生活を続けることができます。
この違いは、被告人にとってまさに人生の分かれ道です。本コラムでは、実刑判決と執行猶予判決の具体的な違い、実刑が見込まれるケース、そして実刑を回避するために弁護士が行う弁護活動について解説します。
実刑判決とは
実刑判決とは、懲役刑や禁錮刑が言い渡され、執行猶予が付されない判決のことです。判決が確定すると、被告人は刑事施設(刑務所)に収容され、言い渡された期間にわたって刑の執行を受けることになります。
たとえば「拘禁刑2年」の実刑判決が確定した場合、被告人は刑務所に収容され、原則として2年間にわたって服役します。仮釈放の制度により、刑期満了前に釈放される場合もありますが、仮釈放が認められるかどうかは個別の事情によります。
実刑判決を受けた場合、服役期間中は就労ができないため、収入が途絶えます。勤務先からの解雇、家族関係の悪化、社会的信用の失墜など、その影響は服役期間にとどまらず、出所後の社会復帰にも長期にわたって及びます。
執行猶予判決とは
執行猶予判決とは、有罪判決において言い渡された刑の執行を一定期間猶予する判決です。猶予期間中に再び犯罪を犯さなければ、刑の言渡し自体が効力を失います。
たとえば「拘禁刑1年6か月、執行猶予3年」という判決の場合、判決確定後も刑務所に収容されることはなく、通常の社会生活を続けることができます。3年間の猶予期間を無事に経過すれば、拘禁刑1年6か月の刑は執行されずに済み、法律上は「刑の執行を受けたことがない者」として扱われます。
ただし、執行猶予付きであっても有罪判決であることに変わりはないため、前科はつきます。また、猶予期間中に再び罪を犯して有罪判決を受けた場合には、原則として猶予が取り消され、元の刑と新たな刑の両方が執行されます。
実刑判決と執行猶予判決の具体的な違い
身体拘束の有無
最も直接的な違いは、刑務所に収容されるかどうかです。実刑判決では判決確定後に刑務所に収容されますが、執行猶予判決では収容されず、社会内で生活を続けることができます。
社会生活への影響
実刑判決を受けると、服役期間中は一切の社会活動ができなくなります。仕事を失い、家族と離れ、社会的なつながりが断絶されます。出所後も「元受刑者」として就職や住居の確保に困難を抱えるケースが少なくありません。
執行猶予判決であれば、判決直後から通常の社会生活に戻ることが可能です。勤務先が事情を理解している場合には、職場復帰も十分に見込めます。
資格・免許への影響
公務員や医師、教員など、拘禁刑以上の刑に処せられた者を欠格事由とする資格については、実刑・執行猶予を問わず、有罪判決が確定した時点で資格を失います。ただし、執行猶予の場合は猶予期間の満了をもって刑の言渡しが効力を失うため、その後は再び資格を取得することが制度上可能です。実刑の場合には、刑の執行を終えてからさらに一定期間の経過が必要となります。
家庭への影響
実刑判決は、家庭生活に深刻な影響を及ぼします。長期間にわたる不在は夫婦関係の悪化や離婚、子どもの養育環境への悪影響につながりかねません。執行猶予判決であれば、家庭での生活を維持しながら、家族とともに再出発を図ることが可能です。
実刑が見込まれるケース
以下のような事情がある場合には、実刑判決が言い渡される可能性が高くなります。
犯罪の重大性
殺人、強盗、放火、性犯罪など、法定刑が重い犯罪については、初犯であっても実刑判決となるケースがあります。犯行の態様が悪質である場合や、被害結果が重大である場合には、実刑の可能性はさらに高まります。
前科・前歴の存在
同種の前科がある場合、特に前回も執行猶予付きの判決を受けていた場合には、実刑判決となる可能性が極めて高くなります。再度の執行猶予が認められるためには「情状に特に酌量すべきものがある」という厳格な要件を満たす必要があり、実務上、これが認められるケースは稀です。
示談が不成立
被害者がいる事件において示談が成立していない場合には、被害者の処罰感情が解消されていないと判断され、実刑に傾く事情として評価されます。
反省の態度が不十分
被告人が犯行を否認している場合や、法廷での態度から真摯な反省が認められない場合には、実刑判決の可能性が高まります。ただし、否認すること自体は被告人の正当な権利であり、否認しているからといって直ちに実刑が科されるわけではありません。
実刑を回避するために弁護士ができること
1. 被害者との示談交渉
実刑を回避するための弁護活動として最も効果的なのが、被害者との示談の成立です。示談が成立し、被害弁償が行われ、被害者の宥恕(許し)が得られていることは、裁判官が執行猶予の可否を判断する上で極めて重視される事情です。
起訴後であっても、判決までに示談を成立させることは十分に可能です。弁護士は、判決期日までの限られた時間の中で、被害者との交渉を粘り強く進めます。
2. 情状証人の準備
裁判において、被告人の家族、雇用主、友人などが情状証人として出廷し、被告人の人柄や反省の態度、今後の監督を約束する証言を行うことは、執行猶予の獲得に有効です。
弁護士は、裁判官の心証に最も効果的な情状証人を選定し、証言内容を入念に準備します。形式的な証言ではなく、被告人との具体的な関わりや監督の方法について説得力のある証言ができるよう、事前の打ち合わせを重ねます。
3. 再発防止策の立証
「被告人は再び犯罪を犯さない」と裁判官に確信してもらうことが、執行猶予獲得の鍵となります。弁護士は、犯罪の原因に応じた再発防止策を策定し、すでに実行に移していることを具体的な証拠とともに裁判所に示します。
アルコール問題が背景にある事件では専門医療機関への通院記録、怒りのコントロールが課題となる事件ではアンガーマネジメント講座の受講証明、窃盗症が疑われる事件では専門的なカウンセリングの受講状況など、犯罪類型に応じた取り組みを証拠化して提出します。
4. 被告人質問の準備
被告人質問は、裁判官に対して反省と更生の意思を直接伝える重要な機会です。弁護士は、被告人と十分な打ち合わせを行い、犯行に至った経緯、被害者への謝罪の気持ち、今後の生活の見通しなどを、具体的かつ誠実に語れるよう準備します。
表面的な反省の言葉の羅列ではなく、なぜその行為が許されないのか、被害者にどのような苦しみを与えたのかを自分の言葉で語ることが、裁判官の心証に大きく影響します。
5. 弁論活動
弁護人の最終弁論は、弁護活動の集大成です。弁護士は、示談の成立状況、被告人の反省の深さ、再発防止策の内容、社会復帰の環境、家族の監督体制など、執行猶予を相当とする事情を体系的に整理し、裁判官に対して説得力のある弁論を行います。
同種事案における量刑傾向を調査・分析した上で、本件では執行猶予が相当であることを具体的な根拠とともに主張します。
6. 保釈の獲得
起訴後に身柄が拘束されている場合、弁護士は保釈請求を行い、判決前の身柄解放を目指します。保釈中に社会生活を送りながら再発防止策に取り組んでいる事実は、執行猶予の判断にも間接的にプラスの影響を与えます。
また、保釈中の生活態度そのものが、社会内での更生が可能であることの証明となり得ます。
おわりに
実刑判決と執行猶予判決の違いは、被告人の人生にとって決定的な意味を持ちます。実刑を受ければ刑務所に収容され、社会生活の基盤を失うおそれがありますが、執行猶予を獲得できれば、社会の中で家族とともに再出発を図ることが可能です。
実刑を回避するためには、示談交渉、情状証人の準備、再発防止策の立証、被告人質問の準備、弁論活動という、多角的かつ緻密な弁護活動が不可欠です。当事務所では、初回相談無料・365日24時間のお電話で、実刑回避に向けた弁護活動のご相談を受付けております。起訴された方、裁判を控えている方は、一刻も早くご相談ください。
※本コラムは一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属 登録番号52401)
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