略式起訴とは?略式命令を受けた場合のメリット・デメリットと正式裁判との違い
刑事事件前科はじめに
刑事事件において、検察官が起訴を決定した場合、すべての事件が法廷で審理されるわけではありません。比較的軽微な事件では、「略式起訴」という簡易な手続きにより、法廷に出ることなく罰金刑が科されるケースが数多くあります。
略式起訴は、被疑者にとって身体的・時間的な負担が少ないというメリットがある一方で、有罪判決であることに変わりはなく、前科がつくという重大な結果を伴います。また、略式命令に同意するかどうかの判断を短時間で迫られることも多く、十分な理解がないまま同意してしまうケースも見受けられます。
本コラムでは、略式起訴・略式命令の仕組み、正式裁判との違い、略式命令を受けることのメリット・デメリット、そして略式命令に対する不服申立ての方法について解説します。
略式起訴・略式命令とは
略式起訴の仕組み
略式起訴とは、検察官が簡易裁判所に対して略式命令を請求する手続きです(刑事訴訟法第461条)。通常の起訴(公判請求)とは異なり、公開の法廷での審理を経ずに、書面審査のみで刑罰が言い渡されます。
略式起訴が行われるためには、以下の要件を満たす必要があります。
第一に、簡易裁判所の管轄に属する事件であることです。第二に、科される刑が100万円以下の罰金または科料であることです。拘禁刑を科すことはできません。第三に、被疑者が略式手続きによることについて異議がないことです。検察官は、略式起訴に先立ち、被疑者に対して略式手続きの説明を行い、書面による同意を得なければなりません(刑事訴訟法第461条の2)。
略式命令の流れ
略式起訴がなされると、簡易裁判所の裁判官が検察官から送られた書類と証拠を審査し、略式命令を発します。略式命令には、認定した犯罪事実と科される刑罰(罰金額)が記載されます。
略式命令は被告人に送達され、送達を受けた日から14日以内に正式裁判の請求がなければ、略式命令は確定判決と同一の効力を持つことになります。
正式裁判との違い
審理の方法
正式裁判(公判手続き)では、公開の法廷において、検察官による冒頭陳述、証拠調べ、被告人質問、弁護人の弁論など、一連の審理手続きが行われます。被告人は法廷に出頭し、裁判官の面前で審理が進められます。
これに対し、略式命令は書面審査のみで行われ、法廷での審理は一切ありません。被告人が裁判所に出頭する必要もなく、裁判官は書面上の証拠のみに基づいて判断を下します。
科される刑罰の範囲
正式裁判では、法定刑の範囲内であらゆる刑罰を科すことが可能です。懲役刑、禁錮刑、罰金刑のいずれも言い渡すことができ、事案に応じて執行猶予を付すことも可能です。
略式命令で科すことができるのは、100万円以下の罰金または科料に限られます。したがって、懲役刑や禁錮刑が科される可能性がある事案は、略式起訴の対象とはなりません。
所要期間
正式裁判の場合、起訴から判決まで通常数か月を要し、事件の内容によってはさらに長期間にわたることもあります。その間、被告人は複数回にわたって裁判所に出頭する必要があります。
略式命令の場合は、略式起訴から命令の発付まで通常数日から数週間程度で処理されます。法廷への出頭も不要であるため、時間的な負担は大幅に軽減されます。
略式命令のメリット
法廷に出頭する必要がない
略式命令の最大のメリットは、公開の法廷に出頭する必要がない点です。正式裁判では、公開の法廷で審理が行われるため、傍聴人の目にさらされる可能性がありますが、略式命令ではそうした心理的負担を避けることができます。
短期間で事件が終結する
略式命令は書面審査のみで処理されるため、事件の終結までの期間が大幅に短縮されます。長期にわたる裁判の負担を避け、早期に日常生活に復帰できる点は大きなメリットです。
社会生活への影響が比較的小さい
正式裁判の場合、複数回の公判期日に出頭するために仕事を休まなければならず、職場に事件のことが知られるリスクも高まります。略式命令であれば、こうしたリスクを最小限に抑えることができます。
罰金刑にとどまる
略式命令で科されるのは罰金刑であるため、懲役刑や禁錮刑のように身体を拘束される刑罰を受けることはありません。公務員や医師などの資格に関しても、罰金刑であれば欠格事由に該当しない場合が多く、禁錮以上の刑と比較して資格への影響は限定的です。
略式命令のデメリット
前科がつく
略式命令は有罪判決と同一の効力を持つため、前科がつきます。罰金刑であっても前科であることに変わりはなく、その後の就職、資格、海外渡航などに影響を及ぼす可能性があります。この点は、不起訴処分を獲得した場合との決定的な違いです。
十分な防御の機会がない
略式命令は書面審査のみで行われるため、被告人が法廷で自分の言い分を主張したり、有利な証拠を提出したりする機会がありません。正式裁判であれば、弁護人による弁論や情状証人の証言を通じて、処分の軽減を図ることが可能ですが、略式命令ではそうした防御活動を行う余地がほとんどありません。
同意を撤回できない
略式手続きへの同意は、一度書面で行うと原則として撤回することができません。同意する前に、略式命令を受けることが本当に自分にとって最善の選択であるかを慎重に判断する必要があります。
事実関係を争えない
犯罪事実に争いがある場合、略式命令では事実関係を争う機会がありません。無実を主張したい場合や、検察官が主張する犯罪事実の一部に異議がある場合には、略式命令に同意すべきではありません。
略式命令に同意すべきかどうかの判断
略式命令に同意するかどうかは、事件の結果を左右する重要な判断です。以下の点を検討した上で、弁護士と相談して決定することを強くお勧めします。
同意すべきケース
犯罪事実に争いがなく、証拠上も有罪が明らかである場合で、罰金刑で事件を早期に終結させたいという方針の場合には、略式命令に同意することが合理的な選択となり得ます。特に、正式裁判になったとしても罰金刑が見込まれる事案では、略式命令による早期終結のメリットが大きいといえます。
同意すべきでないケース
犯罪事実に争いがあり、無罪を主張したい場合には、略式命令に同意すべきではありません。また、示談交渉の途中であり、示談が成立すれば不起訴処分を得られる可能性がある場合にも、安易に同意すべきではありません。弁護士を通じて検察官に示談交渉の進捗を伝え、処分の判断を待ってもらうよう交渉することが考えられます。
略式命令に対する不服申立て
正式裁判の請求
略式命令の内容に不服がある場合には、略式命令の送達を受けた日から14日以内に、正式裁判を請求することができます(刑事訴訟法第465条)。正式裁判の請求がなされると、略式命令は失効し、通常の公判手続きで改めて審理が行われます。
正式裁判では、略式命令で科された刑よりも重い刑が言い渡される可能性(不利益変更)もある点には注意が必要です。正式裁判を請求するかどうかは、こうしたリスクも踏まえた上で、弁護士と慎重に検討する必要があります。
14日間の期限の重要性
正式裁判の請求は、略式命令の送達から14日以内に行わなければなりません。この期間を経過すると、略式命令は確定し、もはや争うことができなくなります。略式命令を受け取ったら、速やかに弁護士に相談し、正式裁判を請求すべきかどうかの判断を仰ぎましょう。
おわりに
略式起訴・略式命令は、法廷に出頭することなく、短期間で事件を終結させることができる簡易な手続きです。しかし、有罪判決であることに変わりはなく、前科がつくという重大な結果を伴います。
最も重要なのは、略式命令に同意する前に、不起訴処分を獲得できる可能性がないかを十分に検討することです。示談交渉の余地がある場合や、事実関係に争いがある場合には、安易に同意することなく、弁護士に相談した上で慎重に判断してください。
当事務所では、初回相談無料・365日24時間のお電話対応で、略式起訴に関するご相談も受け付けております。
※本コラムは一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属 登録番号52401)
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