酒に酔って暴行・傷害事件を起こした|飲酒トラブルを弁護士が解説
刑事事件前科示談逮捕目次
はじめに
飲酒をきっかけとした暴行・傷害事件は、刑事事件の中でも非常に多い類型のひとつです。「酔っていて記憶がない」「普段はそんなことをする人間ではない」——ご本人やご家族からこうした声をいただくことは少なくありませんが、酔っていたことは犯罪の免責事由にはなりません。
一方で、飲酒による暴行・傷害事件には、犯行に至る経緯や動機に酌むべき事情があるケースも多く、適切な弁護活動を行うことで不起訴処分や執行猶予を獲得できる可能性があります。特に、飲酒問題の根本的な解決に向けた取り組みを示すことが、検察官や裁判官の心証に大きく影響します。
本コラムでは、酒に酔って暴行・傷害事件を起こした場合に問われる罪、酩酊と刑事責任の関係、そして弁護活動と示談交渉のポイントについて解説します。
問われる罪と法定刑
暴行罪(刑法第208条)
酔った勢いで他人を殴る、胸ぐらを掴む、物を投げつけるなどの行為を行い、相手が怪我を負わなかった場合には暴行罪が成立します。法定刑は「2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」です。
傷害罪(刑法第204条)
暴行の結果として相手が怪我を負った場合には、より重い傷害罪が成立します。法定刑は「15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」です。飲食店での喧嘩で相手の顔面を殴打し骨折させた場合や、路上で突き飛ばして転倒させ頭部を打撲させた場合など、飲酒に起因する傷害事件は被害が重篤化しやすい傾向があります。
その他の罪
飲酒による暴力行為の態様によっては、凶器を用いた場合の暴力行為等処罰法違反、店舗の器物を壊した場合の器物損壊罪(刑法第261条)、駅員や警察官に暴行した場合の公務執行妨害罪(刑法第95条)など、他の犯罪が併せて成立する可能性もあります。
酩酊と刑事責任の関係
「酔っていたから責任がない」は認められるか
刑法第39条は、心神喪失者の行為は罰しない、心神耗弱者の行為はその刑を減軽すると定めています。この規定との関係で、「泥酔して心神喪失の状態にあったから刑事責任を問われないのではないか」という疑問を持たれる方がいます。
しかし、飲酒による酩酊の場合に心神喪失や心神耗弱が認められるケースは極めて稀です。裁判実務では、単純酩酊(通常の酔い)と複雑酩酊(病的酩酊)が区別されており、通常の飲酒による酩酊は単純酩酊に分類されます。単純酩酊の場合には、完全な責任能力が認められるのが原則です。
心神耗弱や心神喪失が認められるのは、アルコール依存症に起因する幻覚・妄想状態など、病的な要因による精神障害が認められる極めて例外的な場合に限られます。
酩酊は量刑上どのように評価されるか
「酔っていた」という事情は、刑事責任を免除する理由にはなりませんが、量刑判断においては犯行に至った経緯のひとつとして考慮されることがあります。
ただし、飲酒は量刑上必ずしも有利に働くわけではありません。むしろ、自ら飲酒をして制御能力を低下させたことを非難される場合もあります。過去に飲酒による同種の前科がある場合には、「飲酒問題を放置して再犯に至った」として、かえって不利に評価されることがあります。
飲酒による暴行・傷害事件の特徴
記憶がないケースへの対応
飲酒による暴行・傷害事件では、本人が犯行時の記憶を欠いているケースが少なくありません。「気がついたら警察署にいた」という状況は決して珍しいものではありません。
記憶がない場合でも、防犯カメラの映像、目撃者の証言、被害者の供述などの客観的証拠によって犯行が認定されることがあります。弁護士は、これらの証拠を精査し、事実関係を正確に把握した上で弁護方針を策定します。記憶がないからといって安易に全面的な否認を行うことは、客観的証拠と矛盾する場合にはかえって不利に働くため、慎重な判断が必要です。
被害者との関係性
飲酒による暴行・傷害事件は、飲食店での見知らぬ客同士のトラブル、同僚との飲み会でのいさかい、帰宅後の家庭内暴力(DV)など、さまざまな場面で発生します。被害者との関係性によって示談交渉の進め方や難易度が異なるため、弁護士は被害者との関係性を踏まえた戦略を立てます。
現行犯逮捕が多い
飲酒による暴行・傷害事件は、犯行直後にその場で現行犯逮捕されるケースが多い点も特徴です。酩酊状態での逮捕となるため、逮捕直後の取調べでは冷静な判断ができない場合があります。この段階での供述が後に不利な証拠となることもあるため、弁護士による早期の接見が特に重要です。
弁護活動のポイント
1. 早期の身柄解放
飲酒による暴行・傷害事件の多くは偶発的な犯行であり、計画性がない点が特徴です。弁護士は、犯行の偶発性、被害者との関係(面識がなく再接触のおそれが低いこと)、証拠隠滅のおそれがないことなどを主張し、勾留の回避や早期の身柄解放を目指します。
酩酊が覚めて冷静さを取り戻している段階では、勾留の必要性が低下していることを具体的に示すことが効果的です。
2. 被害者との示談交渉
飲酒による暴行・傷害事件では、被害者との示談が刑事処分に決定的な影響を与えます。暴行罪であれば、示談の成立により不起訴処分を得られる可能性は相当程度あります。傷害罪であっても、傷害の程度が軽微で示談が成立していれば、不起訴処分や罰金刑にとどまるケースが多く見られます。
弁護士は、被害者に対して加害者の真摯な反省を伝えるとともに、適正な被害弁償を行い、示談の成立を目指します。飲食店でのトラブルなど見知らぬ相手との事件では、被害者の連絡先がわからないことが多いため、弁護士が捜査機関を通じて連絡先を取得し、交渉を開始します。
3. 飲酒問題への取り組み
飲酒による暴行・傷害事件の弁護活動において、他の暴行・傷害事件と大きく異なるのは、飲酒問題の根本的な解決に向けた取り組みを示すことの重要性です。
検察官や裁判官は、「この被疑者・被告人は再び飲酒して同じことを繰り返すのではないか」という点に強い関心を持っています。この懸念を払拭するためには、単に「今後は気をつけます」という抽象的な反省ではなく、具体的な再発防止策を策定し、実行に移していることを示す必要があります。
具体的には、医療機関での飲酒問題に関する相談・受診、アルコール依存症の疑いがある場合には専門の医療機関での診断と治療の開始、断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)などの自助グループへの参加、節酒や断酒の実践と経過の記録などが挙げられます。
弁護士は、これらの取り組みを証拠化し、医療機関の診断書や通院記録、自助グループの参加証明などを検察官への意見書や裁判所への情状資料として提出することを検討します。
4. 家族による監督体制の整備
ご家族が飲酒量の管理や生活状況の監督を行う体制を整えることも、再発防止策として有効です。裁判において情状証人としてご家族に出廷していただき、今後の監督を具体的に約束する証言を行ってもらうことで、裁判官の心証に好影響を与えます。
5. 前科がある場合の対応
飲酒による暴行・傷害事件で前科がある場合には、弁護活動はより困難になります。「前回の事件から何も学んでいない」と厳しく評価されるためです。
この場合には、前回の事件以降に飲酒問題に対する具体的な対処を怠っていたことを率直に認めた上で、今回の事件を契機として専門的な治療やプログラムに取り組んでいることを示す必要があります。前科がある場合ほど、飲酒問題への真剣な取り組みが量刑を左右する決定的な事情となります。
おわりに
酒に酔って暴行・傷害事件を起こしてしまった場合、「酔っていた」という事情は刑事責任を免除する理由にはなりません。しかし、早期の示談交渉と飲酒問題への真剣な取り組みを示すことで、不起訴処分や執行猶予を獲得できるケースは十分にあります。
特に重要なのは、飲酒問題の根本に目を向け、再発防止に本気で取り組む姿勢です。それが刑事処分の軽減につながるだけでなく、ご自身とご家族の今後の生活を守ることにもなります。当事務所では、初回相談無料・365日24時間お電話で、飲酒トラブルによる刑事事件も受け付けております。まずはお気軽にご相談ください。
※本コラムは一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属 登録番号52401)
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