医師・看護師が刑事事件を起こした場合【弁護士解説】
目次
はじめに
医師や看護師が刑事事件を起こしてしまった場合、刑事処分そのものに加えて、医師免許・看護師免許に対する行政処分という極めて深刻な問題に直面します。医療従事者にとって免許は職業生活の根幹であり、免許の取消しは事実上のキャリアの終わりを意味しかねません。
一方で、刑事事件を起こしたからといって、直ちに免許が取り消されるわけではありません。刑事処分の結果や事件への対応の仕方によっては、免許を維持できるケース、あるいは取消しを回避して戒告や業務停止にとどめられるケースもあります。
本コラムでは、医師・看護師が刑事事件を起こした場合の免許への影響、行政処分の仕組みと判断基準、そして免許を守るための弁護活動について解説します。
医師免許・看護師免許に対する行政処分の仕組み
医師の場合
医師法第7条は、医師が一定の事由に該当する場合に、厚生労働大臣が行政処分を行うことができると定めています。処分の種類は、戒告、3年以内の医業の停止(業務停止)、免許の取消しの3段階です。
行政処分の対象となる事由としては、罰金以上の刑に処せられた場合、医事に関し犯罪または不正の行為があった場合、医事に関し不正の行為があった場合、医師としての品位を損するような行為があった場合などが規定されています。
特に注意すべきは、「罰金以上の刑に処せられた場合」には、医療とは無関係の犯罪であっても行政処分の対象となり得るという点です。交通事故、暴行、窃盗など、医療業務と直接関係のない犯罪であっても、有罪判決を受ければ処分の対象となります。
看護師の場合
保健師助産師看護師法第14条は、看護師に対する行政処分について同様の規定を設けています。処分の種類は、戒告、3年以内の業務の停止、免許の取消しの3段階であり、医師の場合と基本的に同じ構造です。
処分の対象となる事由も、罰金以上の刑に処せられた場合や、看護師としての品位を損するような行為があった場合などが定められています。
行政処分の手続きの流れ
医師・看護師に対する行政処分は、刑事裁判の確定後に行われるのが一般的です。具体的な流れとしては、まず刑事事件の有罪判決が確定し、その情報が厚生労働省に通知されます。その後、厚生労働省が事案を調査し、医道審議会(医師の場合)または看護師等についての審議会に諮問します。審議会は処分内容について意見を述べ、最終的に厚生労働大臣が処分を決定します。
処分の決定に先立ち、被処分者には意見の聴取(聴聞または弁明の機会の付与)が行われます。この手続きにおいて、弁護士が代理人として意見を述べることが可能です。
行政処分の判断基準
医道審議会の処分基準
医師に対する行政処分については、医道審議会が「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」という基準を公表しています。この基準は、事案の類型ごとに標準的な処分量定を示すとともに、処分の加重・軽減にあたって考慮すべき事情を定めています。
基準では、犯罪の種類に応じた標準的な処分の目安が示されており、たとえば殺人や強盗など重大犯罪は免許取消し、傷害や窃盗は業務停止から免許取消し、交通事故(人身事故)は戒告から業務停止、といった枠組みが設けられています。
処分の軽減が考慮される事情
標準的な処分量定はあくまで目安であり、個別の事情によって処分が軽減される場合があります。軽減の方向で考慮される主な事情は以下のとおりです。
刑事処分が不起訴や罰金刑など比較的軽微であること、被害者との示談が成立し被害弁償が行われていること、犯行の態様が悪質でないこと、医療過誤ではなく業務外の犯罪であること、深い反省が認められ再犯のおそれが低いこと、長年にわたる医療への貢献実績があること、地域医療への影響が大きいことなどが挙げられます。
特に、不起訴処分を獲得できた場合には、行政処分自体が行われないか、行われたとしても戒告にとどまるケースが多い傾向にあります。
刑事処分の結果と免許への影響の関係
刑事処分の結果が免許にどのような影響を及ぼすかは、概ね以下のように整理できます。
不起訴処分の場合は、行政処分が行われないか、行われても戒告程度にとどまることが多く、免許への影響は最も小さくなります。罰金刑の場合は、戒告または短期間の業務停止処分が科されることが一般的ですが、免許取消しに至ることは稀です。禁錮以上の刑で執行猶予が付された場合は、業務停止処分が科される可能性が高く、事案によっては免許取消しもあり得ます。実刑判決の場合は、免許取消しとなる可能性が極めて高くなります。
このように、刑事処分の結果が免許への影響を大きく左右するため、刑事弁護の段階で可能な限り軽い処分を獲得することが、免許を守る上での最も重要な戦略となります。
免許を守るための弁護活動
1. 不起訴処分の獲得に全力を尽くす
医療従事者の刑事事件においては、不起訴処分の獲得が弁護活動の最大の目標です。不起訴であれば前科がつかず、行政処分を受けるリスクも大幅に低下します。
弁護士は、被害者との示談交渉を迅速に進め、宥恕を含む示談を成立させた上で、検察官に対して不起訴が相当である旨の意見書を提出します。その際、医療従事者としての社会的貢献や地域医療への影響についても言及し、起訴による社会的損失の大きさを訴えることが有効です。
2. 起訴された場合の罰金刑・執行猶予の獲得
不起訴処分が得られなかった場合でも、罰金刑にとどめることが免許維持にとって重要な意味を持ちます。罰金刑であれば、業務停止処分にとどまる可能性が高く、一定期間の経過後に医療現場への復帰が見込めます。
正式裁判に至った場合には、執行猶予付き判決の獲得を目指します。実刑判決は免許取消しに直結する可能性が極めて高いため、あらゆる情状を積み上げて実刑を回避することが不可欠です。
3. 行政処分手続きへの対応
刑事事件が終結した後に行われる行政処分手続きにおいても、弁護士の関与は重要です。意見の聴取(聴聞)の場で、弁護士が代理人として以下のような事情を主張します。
刑事事件における示談の成立と被害弁償の状況、本人の反省の深さと再発防止策の実施状況、長年にわたる医療への貢献実績、免許取消しが地域医療に及ぼす影響、同種事案における過去の処分例との均衡などを、具体的な資料とともに提示し、処分の軽減を求めます。
4. 再発防止策の立証
行政処分の判断においても、再発防止に向けた具体的な取り組みは重視されます。犯罪の内容に応じて、依存症の治療プログラムへの参加、カウンセリングの継続受講、倫理研修の受講、生活環境の改善など、実効性のある再発防止策を策定し、すでに実行に移していることを証拠をもって示すことが大切です。
5. 報道対策
医師・看護師の犯罪は、「医療従事者の不祥事」として報道価値が高いと判断されやすく、実名報道のリスクが伴います。報道がなされれば、行政処分の結果にかかわらず、勤務先の医療機関での就業が困難になる場合があります。
弁護士は、捜査機関に対する実名発表の回避要請や、報道された場合のインターネット記事の削除請求など、報道によるダメージを最小限に抑えるための対策を講じます。
免許取消し後の再免許について
万が一、免許が取消しとなった場合でも、一定の期間を経過した後に再免許を申請することが制度上は可能です。医師法第7条第2項は、免許取消しを受けた者であっても、取消しの理由となった事由に該当しなくなったとき等には、再免許を与えることができると定めています。
ただし、再免許の審査においては、取消し後の反省の状況、再発防止への取り組み、医師としての適格性が改めて審査されるため、再免許が認められるとは限りません。再免許の申請を見据えた場合にも、弁護士の継続的なサポートを受けながら、反省と更生の実績を着実に積み重ねることが重要です。
おわりに
医師・看護師が刑事事件を起こした場合、刑事処分と行政処分という二重の手続きに直面し、免許の喪失というキャリアの根幹を揺るがすリスクを負います。しかし、早期に弁護士に依頼し、不起訴処分の獲得、示談の成立、行政処分手続きへの適切な対応を行うことで、免許を維持できる可能性は十分にあります。
当事務所では、初回相談無料・365日24時間お電話で、医療従事者の方の刑事事件も受け付けてしております。免許への影響が心配な方は、できるだけ早い段階でご相談ください。早期の対応が、免許とキャリアを守るための最善の道です。
※本コラムは一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属 登録番号52401)
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