煽り運転(妨害運転罪)で逮捕された場合の示談交渉と弁護活動
刑事事件前科示談逮捕目次
はじめに
近年、社会問題として大きな注目を集めている「煽り運転」。2020年6月の道路交通法改正により、煽り運転は「妨害運転罪」として明文化され、厳しい罰則が設けられました。ドライブレコーダーの普及に伴い、煽り運転の証拠が残りやすくなったことも相まって、検挙件数は増加傾向にあります。
煽り運転で逮捕された場合、免許の取消しに加え、懲役刑が科される可能性もあり、その影響は極めて深刻です。しかし、適切な弁護活動と示談交渉を行うことで、処分を軽減できるケースもあります。
本コラムでは、妨害運転罪の概要、逮捕後の流れ、示談交渉のポイント、そして弁護活動において重要な事項について解説します。
妨害運転罪とは
法律上の位置づけ
妨害運転罪は、2020年6月30日に施行された改正道路交通法第117条の2の2第1項第8号および第117条の2第1項第6号に規定されています。他の車両等の通行を妨害する目的で、交通の危険を生じさせるおそれのある一定の違反行為を行った場合に成立します。
妨害運転罪の2つの類型
妨害運転罪には、行為の危険性に応じて2つの類型が設けられています。
第一の類型は、通行を妨害する目的で交通の危険を生じさせるおそれのある方法により一定の違反行為を行った場合です。この場合の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
第二の類型は、上記の妨害運転によって高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた場合です。この場合の法定刑は「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」と、さらに重い処罰が科されます。
対象となる10類型の違反行為
妨害運転罪の対象となる違反行為は、以下の10類型です。通行区分違反、急ブレーキ禁止違反、車間距離不保持、進路変更禁止違反、追越し違反、減光等義務違反(ハイビームの継続照射等)、警音器使用制限違反(執拗なクラクション)、安全運転義務違反、最低速度違反(高速道路での低速走行)、高速自動車国道等駐停車違反の10類型です。
これらの行為を、他の車両の通行を妨害する目的で行った場合に妨害運転罪が成立します。
行政処分
妨害運転罪で摘発された場合、刑事処分とは別に行政処分として運転免許の取消しが科されます。第一類型の場合は違反点数25点で免許取消し(欠格期間2年)、第二類型の場合は違反点数35点で免許取消し(欠格期間3年)となります。前歴がある場合には、欠格期間はさらに長くなります。
煽り運転で逮捕された後の流れ
現行犯逮捕と後日逮捕
煽り運転の場合、現場で警察官に現行犯逮捕されるケースのほか、被害者の通報やドライブレコーダーの映像をもとに後日逮捕(通常逮捕)されるケースがあります。特に近年は、被害者がドライブレコーダーの映像を警察に提出し、後日逮捕に至るケースが増えています。
逮捕後の身柄拘束
逮捕後は、他の刑事事件と同様に、警察での取調べを経て検察官に送致されます。検察官が勾留請求を行い、裁判官がこれを認めた場合、原則10日間、延長を含めて最大20日間の勾留が続きます。
煽り運転の事案では、被害者や目撃者への接触による証拠隠滅のおそれを理由に勾留が認められやすい傾向があります。また、ドライブレコーダーの映像という客観的証拠が存在するため、事実関係の争いが難しいケースも多く見られます。
起訴・不起訴の判断
検察官は、事案の悪質性、被害の程度、前科前歴の有無、被害者との示談の成否などを総合的に考慮して、起訴・不起訴の判断を行います。煽り運転は社会的関心の高い犯罪類型であるため、他の交通犯罪と比較して起訴率が高い傾向にあります。
示談交渉のポイント
示談金の相場
煽り運転(妨害運転罪)の示談金は、被害の態様や程度によって大きく異なります。
物損や軽微な恐怖感にとどまるケースでは、20万〜50万円程度で示談が成立することがあります。被害者が強い恐怖を感じた場合や、同乗者(子どもなど)がいた場合には、50万〜100万円程度となることもあります。
なお、煽り運転の結果として交通事故が発生し、被害者が負傷した場合には、治療費・休業損害・慰謝料などの損害賠償が加算されるため、示談金はさらに高額になります。
被害者の処罰感情への対応
煽り運転の被害者は、生命の危険を感じるような恐怖体験をしていることが多く、処罰感情が非常に強い傾向にあります。「絶対に許せない」「厳罰を望む」という被害者に対して示談交渉を進めることは容易ではありません。
このような場合、弁護士が間に入り、加害者の真摯な反省の態度を伝えるとともに、再発防止に向けた具体的な取り組みを説明することが重要です。謝罪文の作成にあたっては、自己の行為の危険性を正面から認め、被害者の恐怖や不安に寄り添う内容とすることが求められます。
示談交渉のタイミング
煽り運転の事案では、検察官の起訴判断が比較的厳しいため、勾留期間中のできるだけ早い段階で示談交渉を開始することが重要です。起訴前に示談を成立させることができれば、不起訴処分を得られる可能性が残りますが、起訴後の示談であっても量刑上有利に考慮されるため、交渉を諦めるべきではありません。
弁護活動のポイント
1. 事実関係の精査
煽り運転の事案では、ドライブレコーダーの映像が重要な証拠となります。弁護士は、映像の内容を確認可能な場合には精査し、捜査機関が考える犯行態様と実際の状況に齟齬がないかを確認します。
たとえば、相手方の運転にも問題があった場合や、妨害の目的ではなく単なる不注意であった場合には、妨害運転罪の構成要件を満たさない可能性があります。「通行を妨害する目的」は主観的要件であるため、客観的な状況証拠から目的の存否を争う余地がある事案も存在します。
2. 行為の悪質性の軽減主張
すべての煽り運転が同程度に悪質というわけではありません。一時的な感情の高ぶりによる短時間の行為と、長時間にわたる執拗な追跡行為とでは、悪質性に大きな差があります。
弁護士は、行為の継続時間、具体的な危険の程度、行為に至った経緯などを丁寧に主張し、事案の実態に即した適正な処分を求めます。
3. 再発防止策の提示
煽り運転で逮捕された場合、再発防止に向けた具体的な取り組みを示すことが、検察官や裁判官の心証に大きく影響します。
具体的には、怒りのコントロールに関するカウンセリングやアンガーマネジメント講座への参加、安全運転に関する講習の受講、日常的に運転する必要がある場合にはドライブレコーダーの設置による自己監視の実施などが挙げられます。弁護士は、これらの取り組みを証拠化し、検察官への意見書や裁判所への情状資料として提出します。
4. 身柄解放に向けた活動
煽り運転で勾留された場合、弁護士は勾留決定に対する準抗告や、勾留取消しの請求を行い、早期の身柄解放を目指します。特に、被害者との示談が成立した場合や、証拠隠滅のおそれがないことを具体的に示せる場合には、身柄解放が認められる可能性が高まります。
身柄拘束が長期化すると、職場への影響や家庭生活への支障が深刻化するため、早期の身柄解放は弁護活動における最優先課題のひとつです。
5. 示談交渉
検察官の起訴・不起訴の判断において、何よりも重視されるのは示談の成否です。前述の通り、弁護人は示談交渉が成功するよう最善を尽くします。
おわりに
煽り運転(妨害運転罪)は、2020年の法改正以降、厳しい姿勢で取り締まりが行われている犯罪です。ドライブレコーダーの映像という客観的証拠が残りやすいことから、逮捕・起訴に至るケースも増加しています。
しかし、早期に弁護士に依頼し、適切な示談交渉と弁護活動を行うことで、不起訴処分の獲得や量刑の軽減を実現できる可能性があります。煽り運転で逮捕された場合、あるいは逮捕のおそれがある場合には、できるだけ早い段階で刑事事件に精通した弁護士にご相談されることを強くお勧めします。
※本コラムは一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属 登録番号52401)
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