不同意わいせつ事件の示談金の相場はいくらか?示談交渉のメリット等を解説
目次
はじめに
本コラムは、不同意わいせつ事件の示談金(慰謝料)の相場や示談交渉の方法、示談成立によるメリットなどについて詳しく解説したものです。不同意わいせつ事件は、旧「強制わいせつ罪」が法改正によって名称が変わったものであり、被害者の精神的苦痛や身体的被害が非常に大きいケースも多々あります。加害者としては、不起訴や刑罰の軽減を図りたいという強い思いがある一方、被害者の方からすれば、金銭的・精神的な補償の必要性や、今後の生活を考慮したうえでの不安解消などが大きなポイントとなるでしょう。本コラムでは、示談金(慰謝料)の相場をはじめ、示談の進め方や成立のメリットを整理し、不同意わいせつ事件における示談交渉の実情を解説します。
不同意わいせつ事件とは何か?
不同意わいせつ罪の概要
不同意わいせつ事件とは、旧「強制わいせつ罪」(刑法176条)が改正され、名称が変わったものを指します。令和5年(2023年)の刑法改正により「不同意わいせつ罪」という名称・要件となり、被害者の同意がないにもかかわらず、その身体を触るなどわいせつな行為をする犯罪です。暴行や脅迫といった強制手段を用いたケースはもちろん、被害者が抵抗・拒絶できない状態(睡眠状態や泥酔状態など)にあることを利用して、わいせつ行為を行う場合も含まれます。
刑罰の重さ
不同意わいせつ罪の法定刑は「1年以上10年以下の拘禁刑」(懲役刑)が規定されており、もともと「強制わいせつ罪」として処罰されていた当時から、非常に重い刑罰が予定されています。罰金刑の定めがないため、起訴されれば執行猶予が付かない実刑判決を下される可能性もゼロではありません。また、示談が成立していなければ、検察官が起訴を選択するケースも少なくありません。
つまり、不同意わいせつ事件は痴漢や盗撮よりもさらに重く扱われる可能性が高く、加害者としては、できる限り早い段階で被害者と示談を成立させることが、前科を回避したり、刑罰を軽減してもらううえで極めて重要となります。
不同意わいせつ事件の示談金(慰謝料)の相場はどのくらい?
示談金の「相場」はあくまで目安
不同意わいせつ事件で問題となる示談金(慰謝料)の相場は、被害態様や被害者の精神的苦痛の程度、加害者の経済状況など、多くの事情により左右されます。したがって「示談金の絶対的な相場」は存在しませんが、過去の実務例などから見ると50万円~150万円程度を目安とすることが多い印象です。
もちろん事案によっては「20万円前後」で成立するケースもあれば、「100万円を超える額」を請求されるケースもあります。特に以下で解説するように、被害状況が重大な場合や、加害者に常習性がある場合などは示談金が高額化しやすい傾向があります。
なぜ金額に幅があるのか?
被害者の精神的苦痛は数値化しにくく、それを金額で評価しなければならないため、交渉次第で大きく変動します。また、不起訴処分を強く望む加害者の側が高額の示談金を提示し、被害者としてもそれを受け入れることで示談に応じる、という場合も珍しくありません。示談の金額は最終的に「当事者(被害者・加害者)の合意」で決まります。
不同意わいせつ事件の示談金が高額になりやすいケース
不同意わいせつ事件において示談金が高額になりやすいのは、主に下記のような状況です。
重大な精神的苦痛が生じている場合
被害者が事件後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)や鬱症状を発症し、日常生活や仕事に大きな影響が生じている場合は、慰謝料の額が大きくなりがちです。特に医療機関での治療を受けている場合は、治療費や通院の負担のほか、精神的苦痛を金銭的に評価するとして大きな金額が提示されることもあります。
常習的な行為や暴行・脅迫の度合いが強い場合
同じ被害者に対して複数回にわたるわいせつ行為を行っていたり、暴行や脅迫の程度が強いケースでは、検察や裁判所の処罰感情も厳しくなります。また、被害者の処罰感情が非常に強くなり、示談のハードルが高まるため、示談を希望する加害者としては高額な金額を提示せざるを得ないケースもあります。
加害者と被害者の関係性
被害者が加害者に対して強い怒りや恐怖を抱いている場合、示談成立までの精神的負担も大きくなるため、示談金の額は高くなる傾向にあります。特に、勤務先や学校など、もともと近い関係だった場合には被害者側のショックが大きく、示談を成立させるためには相応の補償を求められることが多いです。
加害者が社会的身分の高い場合
加害者が高収入であったり、有名企業に勤めていたりすると、被害者としては「加害者が失うものが大きい=どうしても不起訴にしたい、あるいは穏便に済ませたいはず」と推測し、高い金額を要求することがあります。実際、加害者が弁護士を通じて「とにかく早期に示談をまとめたい」と考えている様子が見えれば、被害者側が強気になりやすいのです。
示談金と慰謝料の違い
慰謝料とは「精神的苦痛」に対する賠償
刑事事件における慰謝料とは、加害者の犯罪行為によって被害者が受けた精神的苦痛や身体的苦痛への補償を指します。不同意わいせつ事件の場合、身体を無理やり触られたことへのショックや、その後も不安な日常を過ごさなければならない苦痛などが主な対象となります。
示談金とは「被害者が被った損害全体」の補償
示談金とは、慰謝料を含め、被害者が被った損害全般を金銭的に補償するためのものです。たとえば、身体的被害に対する治療費や、事件後に仕事を休んだために発生した休業損害など、さまざまな費目を含めて一括して支払う場合、総称して「示談金」と呼ぶことが多いでしょう。
不同意わいせつ事件の場合、身体的な傷害や暴行の程度によっては、通院費やカウンセリング費、仕事を休んだ分の損害賠償などが加わることもあります。
不同意わいせつ事件で示談を成立させる方法
加害者本人が直接交渉するのは困難
被害者は加害者と直接話をすること自体に強い抵抗を感じる場合が多いため、加害者本人が直接連絡をして示談交渉を進めるのは現実的に難しいといえます。仮に連絡を取れたとしても、被害者が感情的になり、話し合いがうまく進まないか、あるいは法外な金額を請求されてしまうケースも考えられます。
弁護士を通じて示談交渉をする意義
弁護士に依頼すれば、加害者本人の代わりに被害者とのやり取りをすべて引き受けてもらえます。逮捕された場合でも、弁護士は警察や検察を通じて被害者の連絡先を入手できますし、被害者が「加害者本人との面会や会話は拒絶する」場合でも、弁護士を通せば話だけは聞いてくれる可能性が高まります。
さらに、示談金(慰謝料)の具体的な金額や条件面についても、刑事弁護の経験が豊富な弁護士ならば過去の事例などを踏まえて「適正な範囲」を提示することができます。被害者側から法外な金額を要求されても、弁護士が間に入ることで冷静に交渉が行われやすくなるのです。
早期の示談交渉が大切
不同意わいせつ事件の場合、逮捕や勾留が行われると、検察官は事件の悪質性を判断したうえで起訴・不起訴を決めます。示談が成立していれば、被害者の宥恕(加害者を許す意思)が示され、不起訴処分となる可能性が高まります。たとえ逮捕されていても、示談交渉が進んでいる事実を伝えることで、早期釈放が実現するケースもあります。
したがって、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、被害者との示談交渉に着手することが重要です。
不同意わいせつ事件で示談を成立させる加害者側のメリット
不起訴処分を得られる可能性が高まる
警察や検察は、不同意わいせつ事件の被害者が示談に応じ、宥恕の意思を示した場合、被害者感情がある程度和らいだものと判断します。比較的軽微なわいせつ行為だったり、初犯で強い暴行・脅迫がなかったなどの事情によっては、不起訴処分を得られる可能性が高まります。前科が付くことを避けるためには、不起訴処分の獲得が何より重要です。
逮捕・勾留の回避や早期釈放
示談が成立し、被害者が被害届を取り下げたり「これ以上処罰を望まない」意思を明確にしてくれると、警察や検察は「身柄を拘束する必要性が低い」と判断することがあります。まだ逮捕されていない段階なら逮捕されずに済む可能性が高まり、すでに勾留中の場合でも早期の釈放を実現できる場合があります。
執行猶予や減刑の可能性
不起訴にならずに起訴されてしまったとしても、示談が成立していれば裁判所が量刑を判断する際に大きく考慮されます。被害者との示談により「加害者が反省している」「被害者が処罰を強く求めていない」という事情が認められれば、実刑ではなく執行猶予付きの判決が下される場合や、刑が軽減される場合もあります。
不同意わいせつ事件で示談を成立させる被害者側のメリット
不同意わいせつ事件は、加害者だけでなく被害者にとっても示談がメリットとなる場合があります。加害者側の弁護士が示談交渉を行う際には、以下の点を被害者に説明しながら合意を得るケースが多いです。
慰謝料・損害賠償を受け取れる
加害者が処罰されても、その罰金が被害者の手元に入るわけではありません。一方、示談が成立すれば、被害者は直接金銭を受け取ることができます。精神的苦痛を完全に癒すことは難しくとも、金銭的補償によって生活面・治療面での負担を軽減し、前向きに進む足掛かりとすることが可能です。
追加の不安要素を減らせる
示談書には「加害者が今後一切被害者に近づかない」「連絡を取らない」などの条件を盛り込むことが考えられます。違反した場合には高額の違約金を支払う旨を設定することで、被害者にとっては安心材料となるでしょう。もし示談をしないまま加害者が釈放された場合、再度接触されるのではないか、仕返しされるのではないかといった不安を抱え続けなければなりません。示談を通じて、そうしたリスクを低減できる可能性があります。
法廷での証言負担を回避できる
不同意わいせつ事件が起訴され、裁判になれば、被害者は法廷でわいせつ行為の具体的な状況を語らなければならない場合があります。これは被害者にとって大きな精神的苦痛となるでしょう。示談が成立すれば不起訴や早期終結となる可能性が高まり、法廷でつらい体験を証言する必要がなくなる点も、被害者側のメリットです。
まとめ:示談交渉は刑事弁護に強い弁護士への依頼が重要
不同意わいせつ事件は、盗撮や痴漢など他のわいせつ事件と比べても、被害者に与える精神的苦痛や身体的被害が大きく、刑罰も重くなりやすい分野です。加害者としては、早い段階で示談を成立させることで、不起訴処分の獲得や刑罰の軽減、逮捕・勾留の回避といった大きなメリットを得ることができます。一方、被害者にとっても金銭的な補償や再接触リスクを減らすための条件を設けるメリットがあります。
しかし、その示談交渉を加害者本人で進めようとすると、被害者が面会すら拒絶するケースや、感情のもつれから膨大な金額を請求されてしまうケースが多発します。そもそも、被害者の連絡先を入手できない可能性も大いにあります。そこで鍵となるのが、刑事事件に強い弁護士に相談・依頼することです。経験豊富な弁護士であれば、過去の実務から導き出されるおおよその相場や被害者に対する説得方法を理解しており、スムーズな示談交渉を進められるでしょう。
当事務所では、不同意わいせつ事件に限らず、刑事事件に関する示談交渉のご相談・ご依頼を多数取り扱っております。示談を成立させることが、ご依頼者様にとって最も有利な解決につながると判断した場合には、速やかに被害者側との交渉を開始し、できるだけ早期の問題解決を目指します。不起訴処分を勝ち取って前科を付けないためにも、逮捕や勾留を回避するためにも、刑事事件の知識と示談交渉のノウハウを持つ弁護士にお任せください。
不同意わいせつ事件でお困りの際は、ぜひ一度ご相談いただくことをおすすめします。加害者としての立場、被害者としての立場、いずれの場合でも、刑事弁護に注力している弁護士と一緒に解決策を模索し、納得のいく形で問題を解決していきましょう。示談金(慰謝料)の相場や交渉の進め方についても、経験豊富な弁護士が丁寧にアドバイスいたします。早めに行動を起こすことで、取りうる選択肢は大きく広がりますので、まずはお気軽にご相談ください。