刑事事件で不起訴処分(前科をつけない)を勝ち取るための示談の重要性について解説
刑事事件刑事事件で起訴されてしまうとほぼ確実に前科が付いてしまいます。
不起訴となるためには、弁護士に相談し、早期に示談を成立させることが大切です。
目次
示談すれば不起訴になって前科が付かない?不起訴処分の勝ち取り方と前科が付いた場合のデメリットも解説
不起訴は、黙秘したり無罪を主張するだけでは勝ち取れません。
不起訴処分を勝ち取るためには、弁護士に相談、依頼し、示談を成立させることが大切です。
起訴された場合は、高い確率で前科がついてしまうため、逮捕後の早い段階で示談を成立させることも大切です。
不起訴=前科をつけないためには、示談が重要であることを解説します。
不起訴とは
不起訴とは、検察官が被疑者(容疑者・逮捕された人)を起訴しないことです。
不起訴処分は、逮捕された後で無罪を主張したり、黙秘し続けたり、大人しくしていれば勝ち取れるものではなく、相応の弁護活動が必要です。
検察官が起訴・不起訴の判断をする際のポイントを一つ一つ解説します。
訴訟要件を満たしているか
事件が訴訟要件を満たしているかどうかです。
訴訟要件を満たしていなければ、不起訴処分とするしかありません。
代表的なのは、被害者からの告訴がなければ公訴を提起することができないとされている親告罪の場合です。
告訴がない場合は起訴できませんし、告訴が取り下げられた場合も自動的に不起訴となります。
例えば、名誉毀損、侮辱、器物損壊といった犯罪は、親告罪とされているため、被害者に告訴を取り下げてもらうことが不起訴処分獲得のために重要になります。
犯罪が成立していると言えるかどうか
被疑事実が刑法等で定められた犯罪構成要件を満たしているかどうかです。
また、構成要件を満たしていても、犯罪成立阻却事由がある場合もあります。
いずれかで引っ掛かる場合は、「罪とならず」との理由で不起訴処分となります。
犯罪の嫌疑があるかどうか
犯罪を犯したかどうかはっきりしない場合は不起訴処分となるのが原則です。
例えば、
- ・被疑事実を認定すべき証拠がないことが明白である。
- ・被疑事実を認定すべき証拠が不十分である。
こうした場合は、「嫌疑なし」または「嫌疑不十分」という理由で不起訴処分になります。
刑の必要的免除事由に該当するかどうか
被疑事実を認定すべき十分な証拠がそろっている場合でも、法律上、刑を免除すべきと定められている事由に該当している場合は、「刑の免除」を理由に不起訴となります。
例えば、刑法244条に「配偶者、直系血族又は同居の親族との間での窃盗罪、不動産侵奪罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。」と定められているのが代表例です。
訴追の必要性がない場合
不起訴処分を勝ち取るにあたって特に重視すべき点です。
被疑事実を認定すべき十分な証拠があり、刑を免除すべき場合に該当しないならば、原則として起訴すべきことになります。
ただ、被疑者の性格、年齢や境遇、犯罪の軽重、様々な情状などに鑑みて、検察官が訴追の必要性がないと判断した場合は、「起訴猶予」という理由で、不起訴処分とします。
この理由での不起訴処分を獲得するために特に重要になるのが、被害者との示談成立になります。
不起訴処分を勝ち取ることの重要性
不起訴処分を勝ち取ることはなぜ重要なのでしょうか。
結論から言うと、不起訴処分とならず、起訴された場合は、99%の確率で有罪となり、前科が付いてしまうためです。
前科とは
前科とは起訴後、有罪が確定した裁判のことです。
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の刑罰を科された場合は、「前科が付いた」ことになります。
起訴のパターンとしては、法廷で弁護士と検事が弁論を行う通常起訴のほか、簡易な手続きの起訴、略式起訴、即決裁判手続などがあります。
いずれの起訴手続でも、有罪になった場合は前科になります。
前科のデメリット
前科が付いた場合は、前科調書に記載されて検察庁に記録が残ります。
前科等に関する情報は、戸籍には記載されませんし、普段の生活で前科があることを意識しないかもしれませんが、実際には様々なデメリットがあります。
将来、刑事事件に巻き込まれた場合不利になる
将来何らかの犯罪の嫌疑が掛けられた場合、前科があるから、また犯罪を犯したに違いないといった犯罪事実認定がなされることはありません。
ただ、検察官が起訴するかどうかや裁判官が刑罰を判断する際は、前科の有無は重要なポイントになります。
前科がある場合、通常は執行猶予が付く犯罪でも、執行猶予なしの実刑判決が下されてしまうこともあります。
資格が必要な一定の職業に就くことができなくなる
国家資格などは、試験に合格するなどして一定の要件を満たせば取得できますが、せっかく取得した資格も、欠格条項に該当してしまうと、一定期間、資格に基づく職業に就くことが制限されることもあります。
例えば、「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して」数年間は登録を受けられないといった制約を受けてしまい、その資格が必要な仕事ができなくなることがあります。
また、宅建業のように営業許認可が必要な業種でも、前科のある人は一定期間、取締役等になることはできません。
日本版DBSによる就業制限
今後、子どもに接する仕事に就く人に、性犯罪歴がないか確認する「日本版DBS」と呼ばれる制度が開始されます。
日本版DBSが導入されると、不同意性交罪や児童ポルノ禁止法違反といった性犯罪を犯してしまった場合は、保育士、塾講師、家庭教師などの子どもと接する職業に就くことが事実上制限されてしまいます。
社会的信用を失う
前科が付いても就業できる仕事はありますが、やはり多くの会社では、前科のある人は社会的信用度が低いものとみなして、採用時に難色を示しますし、採用されたとしても責任のある仕事は任せてもらえず、キャリアに大きな影響が出てしまいます。
また、結婚の際も当事者同士はよくても、親戚が良い顔をしなかったり、親が猛反対するなどして、結婚自体難しくなることもあります。
前科に関する情報はみだりに公開されないことになっていますが、事件報道はいったん報道されてしまうと長い期間残ってしまいます。
逮捕されたり起訴されたことが大きく報道されてしまうと、インターネット上の検索や、興信所等による信用調査により、前科等が判明してしまいます。
前科をつけないためには示談を行い不起訴処分を得ることが最善の方法
このように様々な弊害を生じさせてしまう前科をつけないための最善の方法は、不起訴処分を得ることです。
親告罪であれば、被害者に告訴を取り下げてもらうことを目指します。
それ以外の犯罪の場合は、被害者と示談を成立させることで、「起訴猶予」という理由による不起訴処分獲得を目指すべきです。
示談は不起訴処分以外でも有効
示談は、不起訴処分を得るための有効な方法ですが、不起訴処分以外の場面でも、示談を成立させておくメリットがあることもあります。
逮捕前の段階での示談で逮捕を回避できることもある
犯罪行為を犯しても、直ちに逮捕されるわけではありません。
警察の捜査が進み犯罪の嫌疑が固まった段階で、逮捕となります。
逮捕は、個人の身体の自由を奪う重要な処分であるため、要件を満たしている場合のみ行われることになっています。
具体的には、逮捕の理由と逮捕の必要性の2つの要件を充足する必要があります。
逮捕の理由とは、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることを意味します(刑事訴訟法199条)。
また、逮捕の必要性は、「被疑者が逃亡するおそれ」があるか「罪証を隠滅するおそれ」があるかにより判断します(刑事訴訟規則143条の3)。
こうした要件を満たした場合に、警察や検察が裁判所に逮捕状を請求したうえで、通常逮捕を行います。
被害者との間で示談を成立させている場合は、「被疑者が逃亡するおそれ」や「罪証を隠滅するおそれ」がないと判断されやすくなります。
そのため、逮捕前の段階で示談を成立させてその旨を、捜査を行っている警察等に連絡することにより逮捕を免れることもできます。
逮捕後の示談により釈放が早くなる
いったん逮捕されてしまうと長期間身体拘束を受けてしまい、社会生活に大きな影響を及ぼしてしまいます。
逮捕されても、刑罰を受けなければ前科にはなりませんが、逮捕されただけでも、信用が下落してしまうこともあります。
逮捕後は、48時間にわたり警察の取り調べを受けます。
その間に事件が検察に送致され、その後の24時間以内に検察が起訴するかどうか判断します。
つまり、72時間は身体拘束を受けてしまうことを覚悟しなければならないことがあります。
検察が勾留の必要があると判断し、裁判所が勾留請求を認めた場合は、10日間、身体拘束期間が続きます。
必要がある場合はさらに10日間延長されてしまうこともあり、最大で、逮捕後、23日間にわたり身体拘束が続くこともあります。
このように逮捕後は、身体拘束が長くなることにより、社会生活に様々な悪影響を及ぼしてしまうことがあります。
ただ、逮捕後、早い段階で示談を成立させれば、早く釈放されやすくなります。
特に検察が勾留請求を行う前の段階で、示談を成立させることで、勾留の必要性がないとの判断を得やすくなります。
勾留の必要性を判断するにあたっては、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることのほか、次のいずれかに該当しているかどうかがポイントになります(刑事訴訟法60条)。
- ・被疑者が定まつた住居を有しないとき。
- ・被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- ・被疑者が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
示談を成立させることで、罪証隠滅、逃亡のおそれがないと判断してもらいやすくなり、勾留を免れやすくなります。
起訴された後も示談により執行猶予になりやすい
示談は起訴された後でも有効なこともあります。
裁判官は有罪判決を下すにしても、執行猶予を付けるかどうかは、様々な観点から判断します。
被害者との示談が成立しているかどうかは、裁判官の判断に一定の影響を及ぼします。
例えば、示談を成立させた上で、加害者を許すとか、厳罰は望まないといった文言をつけてもらえば、裁判官も被害者の感情を考慮した上で、執行猶予付きの判決を下すこともあります。
被害者と示談が成立していない場合は、裁判官としても、被害者は少なくとも減刑は望んでいないだろうと判断するしかないため、実刑判決を下すこともあります。
示談しても起訴されてしまうケース
不起訴にしてもらうためには、被害者との示談を成立させることが大切です。
ただ、示談をしても起訴されてしまうケースもあります。
悪質な事件の場合
悪質な事件の場合は、被害者との間で示談が成立したかどうかにかかわらず、検察官は起訴します。
例えば、窃盗犯で被害額が多額の場合や繰り返し空き巣を行っていた可能性が高い場合です。
不同意わいせつ罪で被害者が未成年の場合も起訴する可能性が高いでしょう。
被害者の許しが得られていない場合
示談を成立させても被害者が許しているとは限りません。
被害者が許しているかどうかは、示談書の中で加害者を許し厳罰を望まない旨の宥恕文言が盛り込まれているかで判断します。
示談交渉を弁護士に依頼した場合は、たいてい、宥恕文言を盛り込みますが、被害者がこの部分は削ってほしいと言う可能性もあります。
この場合は、示談をしてもその効果が減退してしまうということです。
前科がある場合
前科がある場合は、示談を成立させたとしても起訴の判断に傾きやすいです。
特に、同種の犯罪での前科がある場合は、起訴される可能性が高いです。
不起訴のための示談のポイント
不起訴にしてもらうためには、示談交渉の際にどのような点を考慮すべきなのでしょうか。
被害回復を図る
被害者が被った損害を完全に回復させることは難しいことも多いですが、損害に見合うだけの金銭的な賠償を行うことが大切です。
物を盗んだり壊した場合は、その価値に見合った弁償を行うのは当然として、被害者が被った精神的苦痛についても慰謝料を支払う必要があります。
被害者の許しを得る
示談書の中に加害者を許し厳罰を望まない旨の宥恕文言を盛り込むことです。
注意したいのは、宥恕文言は被害者の同意を得て盛り込むことです。
被害者が許すと言っていないのに勝手に盛り込んでいた場合、後日、検察が被害者に確認をした際に、許していないことがバレてしまうこともあります。
この場合、示談を行った意味がなくなってしまうため注意しましょう。
告訴や被害届の取り下げをお願いする
親告罪の場合は、告訴を取り下げることが直ちに不起訴処分につながります。
そのため、示談成立時に、示談金支払いと引き換えに告訴や被害届の取り下げを求めるといった交渉を行うべきです。
親告罪でなくても、被害者から告訴や被害届の取り下げを行うことは、被害者が許していることを行動で示したことになるため、検察が不起訴の判断をしやすくなります。
清算条項を盛り込む
示談は、不起訴処分を勝ち取ることだけでなく、民事的な問題についても同時に解決することを目的に行うのが一般的です。
具体的には、加害者が示談金を支払う代わりに、被害者は民事的な損害賠償請求権を行使しないといった条項を盛り込みます。
これにより、刑事、民事双方に関して一度に問題解決を図れるわけです。
不起訴のための示談交渉は弁護士に依頼しよう
不起訴のための示談交渉では、考慮すべき点が多数あります。
加害者がご自身で被害者と示談交渉を行おうとしても上記の点を考慮した示談書を作成できないこともありますし、被害者が加害者との直接の示談交渉には応じてくれないこともあります。
示談交渉ができたとしても、相場からかけ離れた示談金を求められてしまうこともあります。
さらに、性犯罪事件の場合は、被害者の連絡先が分からず、そもそも示談交渉すらできないこともあります。
弁護士に依頼すれば、このようなリスクやデメリットを回避することができます。
不起訴のための示談交渉で悩んでいる方は早めに弁護士にご相談ください。