横領(業務上横領)は刑事事件として逮捕される可能性がある?弁護士への相談と示談の必要性について解説
横領(業務上横領)は、刑法に横領罪として規定されている罪なので逮捕される可能性があります。
一方で、早期に示談を成立させることで刑事事件化を防ぐことも可能です。
横領では早期に弁護士に相談し、示談を成立させることが重要である理由について解説します。
目次
横領が刑事事件として逮捕されるケースとは?示談成立の重要性とタイミングについて解説
横領は、刑法にも規定されている犯罪で大きく分けて単純横領罪、業務上横領罪、占有離脱物横領罪の3種類があります。
この中で特に多いのが勤務先の財物を着服してしまう業務上横領罪です。
犯罪の性質上、横領事件が発覚した場合は、被疑者(加害者)の社会的信用が大きく下落し、刑罰以外にも様々な社会的制裁を受けてしまいます。
一方で、横領は早期に示談を成立させることで刑事事件化を防ぐことも可能な犯罪です。
そのため、横領行為を行ってしまった場合は、可及的速やかに弁護士に相談し、その後の対応策を検討することが大切です。
横領とは
刑法における横領とは、自己の占有する他人の物を横領することです。
簡単に言えば他人から預かった物を自分のものにしてしまうことを意味します。
犯罪の性質上、横領が成立する前提として、民法上の委任契約などにより他人の物を預かる関係(委託信任関係)になければなりません。預かった他人の物を着服した場合に横領罪が成立します。
横領と窃盗の違い
横領と窃盗の違いがよく分からない方もいらっしゃるでしょう。
どちらも他人の物を盗む点では同じですが、他人が占有している物を盗み取る行為が窃盗になります。
例えば、スリや空き巣は窃盗の代表例です。
人がポケットに入れて占有している物を盗んだり、留守であっても人が管理している家に忍び込んで盗み出す行為です。
それに対して、横領は、自分が既に他人から預かっている物を勝手に着服する行為ということになります。
ただ、同じ行為でも人により横領になる場合と窃盗になる場合があります。
例えば、オーナー経営のコンビニでオーナーとは別に店長がおり、店員がいたとしましょう。
店長や店員が店のレジから現金を着服した場合はどうなるのでしょうか。
まず、店長は一般的にオーナーから委託されて店の売上金を管理する立場にあります。
その現金を盗んだ場合は、自己の占有する他人の物を横領したことになるため、横領罪になります。
一方、店員は一般的に店の売上金を管理する立場ではありません。
レジの現金を盗むことは、他人である店長が管理している現金を盗むことになるため、窃盗罪になります。
横領と背任の違い
背任罪という刑罰もあります。
背任罪とは、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えた」場合に罰せられる犯罪です。
横領と背任はどちらも、他人からの委託がある点では同じです。
横領は他人から委託された財物をそのまま盗んでしまう行為を意味するのに対して、背任は他人から任されている仕事に関して、他人の信頼を裏切る行為をする場合を意味します。
背任の典型的な行為としては、銀行の支店長が融資額の回収が困難になると承知の上で、担保も取らず融資に応じる行為が挙げられます。
それに対して、銀行の支店長が銀行に預け入れられた金銭を自分の懐に入れてしまう行為は横領ということになります。
横領罪の3類型
横領罪には、次の3つのタイプがあります。
- ・横領罪(単純横領罪、委託物横領罪)
- ・業務上横領罪
- ・遺失物等横領罪(占有離脱物横領罪)
それぞれ確認していきましょう。
横領罪(単純横領罪、委託物横領罪)
自己の占有する他人の物を横領する場合です。
また、自己の物でも公務所から保管を命じられた物を横領する場合も同様です。
「自己の占有する」とは、実際に自分の手元に占有している場合(事実的支配)だけでなくて、法律上自分が他人の物を容易に処分できる状態、つまり、法律的支配も含みます。
例えば、株式会社の取締役は、会社の財産を占有している状態にあると解されています(大判大正4年4月9日)。
そしてこの占有状態は、物を所有する人との間の「委託信任関係により生じたもの」でなければなりません。
株式会社の取締役も株式会社のオーナー株主から株主総会で選任される際に委託信任関係が生じているとみることができるわけです。
「他人の物」とは、財物に限られると解釈されています。
財物とは、現金のほか、不動産も含みます。
例えば、登記簿上は自己所有名義になっているものの既に売却済みになっているなど、自己所有に属しない不動産について、所有権移転登記手続請求の訴えが提起された場合に、自己の所有権を主張して抗争する場合は、その不動産について、横領罪が成立すると解されています(最決昭和35年12月27日 刑集 第14巻14号2229頁)。
「公務所から保管を命じられた物」とは、一般的には、裁判所などが債務者の動産に対して差し押さえを行い、その差し押さえ物に差し押さえた旨の張り紙をした場合のことです。
その張り紙を勝手に剝がして売却すると横領罪になります。
そして、「横領する」際には、不法領得の意思が伴う必要があると解するのが判例の立場です。
不法領得の意思とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意志」のこととされており、必ずしも、「占有者が自己の利益取得を意図する」ものである必要はないとされています(最判昭和24年3月8日 刑集 第3巻3号276頁)。
なお、横領罪(単純横領罪、委託物横領罪)の法定刑は、五年以下の拘禁刑です。
業務上横領罪
業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。
基本的に、上記の単純横領罪と同じですが、横領する人が、仕事として他人の物を管理したり、預かっている場合に、その他人の物を横領することによって成立します。
横領として容疑者が逮捕される場合のほとんどが業務上横領罪に該当するケースです。
例えば、次のような事例がニュース記事などでも取り上げられています。
- ・会社の経理担当、営業担当の従業員が会社のお金を使い込んでしまう。
- ・営業担当の従業員が会社の商品を転売、横流ししてしまう。
- ・会社の経理担当、財務担当の従業員が会社のお金を自分の口座に移し替えてしまう。
- ・組合のお金を預かっていた担当者が自分の口座へ入金してしまう。
- ・公務員が公金を自分の口座へ移し替えてしまう。
- ・弁護士や司法書士が後見業務で被後見人のお金を使い込んでしまう。
業務上横領罪は、横領罪(単純横領罪、委託物横領罪)よりも法定刑が重く、十年以下の拘禁刑とされています。
なお、業務とは、一般的な仕事のことですが、より正確には、「法規または慣習によるか契約によるかを問わず、同種の行為を反覆すべき地位に基づく事務」のこととされており、必ずしも報酬をもらってする仕事に限りません。
例えば、無給でやる自治会の役員などが、自治体が管理する財物を横領する場合は、業務上横領罪に該当する可能性があります。
遺失物等横領罪(占有離脱物横領罪)
遺失物等横領罪とは、遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。
典型的な事例は次のような場合です。
- ・電車内で他の乗客が置き忘れた荷物を勝手に取ってしまう。
- ・自転車窃盗犯が乗り捨てた自転車を勝手に自分の物にしてしまう。
- ・誤って配達された郵便物を勝手に自分のものにしてしまう。
いずれの場合もしかるべき場所に届け出るべきところ、勝手に自分のものにしてしまった場合は、遺失物等横領罪が成立します。
法定刑は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料です。
横領罪でも逮捕される
横領罪は、その性質上、気づかれにくい犯罪です。
現行犯での逮捕はほとんどありません。
業務上横領罪であれば、横領した時点で気づかれることは少なく、しばらく経ってから、社内の他の人が調べた結果、横領が発覚する等、犯罪が露見するまで時間がかかるケースが大半です。
警察は民事には不介入ということはよく知られていますが、横領事件も民事のようなものだから、
「横領事件で警察が動くことはない」
「業務上横領事件が会社に発覚しても逮捕されない」
と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、刑法に横領罪に関する条文が定められているとおり、横領行為は、民事不介入ではなく、犯罪行為として警察の捜査の対象になりますし、逮捕されることもあります。
横領事件は在宅事件になることも多い
横領事件は在宅事件になることも多いのも事実です。
在宅事件とは、捜査機関が逮捕又は勾留といった手続きを取らず、随時、被疑者を出頭させたうえで取り調べや捜査を進めていく形態です。
検察官が起訴した後も、在宅起訴と言い、裁判所から指定された期日に出頭する形で刑事裁判手続きが進められ、判決が下される流れになります。
捜査機関や裁判所に出頭している時間以外は、日常生活を自由に送ることができるため、手続き的な負担は軽いと言えます。
ただ、捜査がどの段階まで進んでいるのか、起訴されるかどうかが分かりにくい面があります。
横領罪で逮捕されるケース
横領事件は、被害者から警察への被害申告が端緒となり、捜査がスタートするのが一般的です。
被害申告の時点で大半の証拠が提出されていることになるため、被疑者による証拠隠滅の可能性が低く、逮捕されにくい特徴があります。
ただ、警察などの捜査機関が、被疑者に逃亡や証拠隠滅の恐れがあると判断した場合は、逮捕することもあります。
横領事件では、令状がない段階でも刑事訴訟法198条に基づき、被疑者を任意に取り調べることがあります。
任意の取り調べの段階では、被疑者は逮捕又は勾留されているわけではないため、「出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる」ことになっています。
ただ、被疑者が理由なく、出頭や取り調べに応じない場合は、捜査機関が裁判所に令状を請求したうえで、逮捕の手続きを取ることもあります。
また、逮捕後は、検察官がさらに取り調べの必要があると判断すれば、勾留請求がなされてしまうこともあります。
横領罪で逮捕される可能性が高いケース
任意の捜査に正当な理由なく応じない場合以外に、横領罪で逮捕される可能性が高いケースは次のとおりです。
業務上横領罪で着服額が高額な場合
業務上横領罪は、被害者である会社等が被害申告をしなければ犯罪が発覚しませんし、被害申告の時点で弁済方法に関して被疑者(加害者)との間で合意が成立していることもあります。
しかし、被害額が高額なケースでは、捜査機関が悪質な横領行為であると判断して、逮捕状を請求して、逮捕が行われ、さらに勾留請求を行うこともあります。
また、横領行為が常習的、長期的に行われているケースや余罪もあるとみられるケースでも、逮捕されやすいと言えます。
遺失物等横領罪の現行犯逮捕の場合
遺失物等横領罪に該当するケースでは、被害者が置き忘れに気づいて、すぐに戻ることがあります。
その際、被疑者が置き忘れた財布などを横領している場面が発覚すれば、被害者に取り押さえられて、警察に通報されて現行犯逮捕となることもあります。
もっとも、遺失物等横領罪は刑罰が軽いため、微罪処分といい、送検を行わず、警察限りの判断により刑事手続きを終了させることもあります(刑事訴訟法246条、犯罪捜査規範198条)。
ただし、そのためには、被害者へ全額弁済と共に慰謝料を含めた解決金を支払うといった対応が必要ですし、状況によっては、弁護士への相談も必要です。
置き引きの常習犯の場合
置き引きとは、他人が置いた物を盗む行為で、刑法上は、窃盗罪か遺失物等横領罪が成立します。
置き引き犯罪は、防犯カメラの映像から発覚することが多く、特定の場所で常習的に置き引き行為をしている場合は、捜査機関にマークされており、身元が判明し次第逮捕されることもあります。
横領事件で逮捕されない可能性が高いケース
横領事件で逮捕されず、任意の出頭に応じるだけでよい在宅事件となる可能性が高いのは次のような要素が備わっている場合です。
- ・被疑者の勤務先や現住所が明確であること。
- ・被疑者が横領事件につき否認していないこと。
- ・横領額が少額であること。
- ・被害者との間で示談が成立していること。
- ・横領被害についての弁償が終わっているか、弁済計画につき合意が形成されていること。
この中でも特に重要なのが、示談の成立です。
被害者と示談が成立していて、横領被害の弁償が進んでいる状況ならば、警察としても逮捕まで進むことは稀でしょう。
横領事件で逮捕された場合のリスク
横領事件で逮捕された場合は、横領事件の性質上、被疑者となった人は社会的な信用が大きく下落してしまい、経済的に困窮し、社会的にも孤立した状況に追い込まれかねません。
報道される可能性がある
横領事件が社会的影響が大きい事件の場合は、報道される可能性があります。
例えば、横領額が巨額の場合、大手企業の社員による横領事件、銀行員、公務員による横領事件等が代表例です。
実名で報道されてしまった場合は、家族はもちろん、周辺の人たちにも知られてしまい、社会生活上大きな影響を及ぼしてしまいます。
離婚や絶縁といった事態にも発展してしまうことがあります。
職場を解雇され再就職が困難になる可能性がある
勤務先の会社で横領行為を行った場合は当然、会社から懲戒解雇される可能性が高いでしょう。
既に退職済みの場合でも、現在の勤務先から、懲戒処分を受ける可能性があります。
会社が直接の被害者でなくても、実名報道されて、横領が事実だと判明した場合は、会社としても、何らかの懲戒処分を検討しなければなりません。
解雇されなくても懲戒処分を受けたり、横領の前科が発覚することで、社会的な信用が下落し、キャリアに大きな影響が出てしまいます。
また、横領がきっかけで解雇された上に、実名報道されているようなケースでは、再就職も非常に困難になってしまう可能性が高いです。
家庭や人間関係が崩壊する可能性がある
横領事件が広く報道された場合はもちろんのこと、報道されなくても、横領で逮捕、起訴されてしまうと、家族や親戚との付き合い、友人関係などにも大きな影響を及ぼしてしまいます。
配偶者から離婚を求められることや親戚付き合いが難しくなったり、友人が離れてしまう可能性もあります。
その結果、社会的に孤立した状況に追い込まれてしまいがちです。
横領事件で逮捕されないためには示談が重要
横領事件の加害者が、逮捕、起訴されないためには、被害者との示談を成立させることが重要です。
また、示談成立のタイミングも重要になります。
横領犯罪の刑事事件化を防ぐ
横領事件の大半は、被害申告により捜査機関に犯罪が露見する性質上、被害者が被害申告を行う前に示談を成立させることで、横領犯罪の刑事事件化を防ぐことも可能です。
そのためには、被害者が横領に気づき、警察へ相談する前までの段階で、加害者が被害者に横領行為をした旨を申し出て謝罪すると共に、弁償方法について話し合いを行う必要があります。
もちろん、加害者自身が、横領行為をしたことを申し出るのは勇気がいる行為だと思いますが、いずれ発覚するなら早い段階で申し出た方が最善の解決策を探り出せます。
弁護士に相談するなどして、弁護士同伴で申し出ることも検討してください。
横領事件での逮捕・起訴を回避する
横領犯罪が警察に発覚した場合、警察が逮捕するかどうか判断するにあたっては、示談が成立しているかどうかも加味されます。
示談が成立していれば、被疑者の逃亡や証拠隠滅の恐れがないとの判断から、逮捕しない方針を打ち出すこともあります。
また、送検された後も、検察官が起訴するかどうかを判断するにあたっては、示談成立の有無が重要になります。
示談が成立していれば、不起訴処分とすることも多いです。
横領してしまった場合は早めに弁護士へご相談ください
横領事件が刑事事件化してしまった上、広く報道されてしまうと、被疑者は社会的に窮地に追い込まれがちです。
大金が絡む犯罪なので信用が失墜し再就職も困難になります。
一方で、横領事件は警察への被害申告が端緒となって犯罪が発覚するケースが多いため、被害者が警察に被害申告する前の段階で、横領を認めて謝罪し、刑事事件化を防ぐことも可能です。
そのためには、横領してしまった場合は、早い段階で弁護士に相談し、その後の対応方法について検討することが大切です。