盗撮事件の示談金(慰謝料)の相場はいくらなのか?示談交渉の方法とメリットも解説
盗撮事件の示談金(慰謝料)の相場が分からないと適切な額での示談成立は難しいです。
盗撮の示談を成立させることは加害者、被害者の双方にとって、メリットがあります。
盗撮事件の示談金(慰謝料)の相場と、適切な示談金額で示談交渉を成立させるためのポイントを解説します。
目次
盗撮の示談金(慰謝料)の相場・示談交渉を行う方法とメリットを解説
刑事事件では、被害者との示談を成立させることで、加害者(被疑者・容疑者)の勾留を回避したり、不起訴処分にしてもらったり、刑罰を軽くしてもらう形で解決を図ることがあります。
そのためには、弁護士への相談と依頼が必要ですし、費用も掛かります。
しかし、刑事事件において、前科を付けたくない場合は、刑事弁護に強い弁護士に相談、依頼し、示談を成立させることが非常に重要です。
示談の重要性は、盗撮事件でも同じです。
では、盗撮事件の示談金(慰謝料)の相場はどの程度なのでしょうか?
盗撮事件の示談金(慰謝料)の相場が分からないと、加害者も被害者も示談交渉で提示されている示談金額が適正なのか判断が難しいと思います。
結論から言うと、盗撮の示談金(慰謝料)の相場は約30万円で、事案により約10万円から50万円の間で変動します。
また、盗撮事件の内容によっては、慰謝料以外にも損害が発生することもあるため、示談金の額が高額になることもあります。
この記事では、適正な示談金の相場と、示談交渉を行う方法、示談を成立させることについての加害者、被害者双方のメリットについて解説します。
1.盗撮事件の示談金(慰謝料)の相場
盗撮の示談金(慰謝料)の相場は、約30万円が中間値ですが、事案により約10万円から50万円になります。
ただ、被害の態様によっては、100万円台の慰謝料を請求されることもあります。
撮影罪を処罰する性的姿態撮影等処罰法(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律)では、性的姿態等撮影罪の刑罰が、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に規定されています。
罰金刑の上限金額の高さが目につきます、実際に300万円の罰金刑が下されるのは余程の場合に限られ、通常は30万円程度の罰金刑が下されることが多い印象です。、
2.盗撮事件の示談金と慰謝料の違いは?
一般的に示談を成立させる場合の、示談金と慰謝料は若干意味合いが違います。
刑事事件の慰謝料とは、被害者が加害者の犯罪行為により精神的苦痛を受けたことに対して、金銭的な補償を行うものです。
盗撮の被害者は、盗撮されたこと自体に精神的ショックを受けますし、盗撮された画像や動画がネットで出回っていると、その流出を知ったことによっても大きな精神的ショックを受けてしまいます。
精神的ショックの程度が大きい場合は、精神疾患を患ってしまうこともあります。
このように被害者が被った精神的な損害に対して金銭的な補償を行うのが慰謝料です。
盗撮事件では、被害者が暴行被害を受けているケースは少ないため、示談の際に支払うべき金額は慰謝料のみというケースも多いです。
刑事事件の示談金は、慰謝料も含めて被害者が被った損害のすべてについて支払いを行う場合の金銭です。
例えば、被害者が盗撮されただけでなく、暴行された場合は、慰謝料のほか、暴行によって壊された物の補償、怪我を負わされた場合の治療費などを請求されることが多々あります。
また、被害者が著名人の場合は、盗撮されたデータの流出により、実害を被ることもあります。
こうした損害をまとめて支払う場合が示談金になります。
盗撮事件の示談では、被害者が請求できる賠償の費目は、慰謝料だけというケースが多いですが、示談金と慰謝料が混同して使われていることもあります。
3.盗撮とは何か?
性的姿態撮影等処罰法では、次のような行為が性的姿態等撮影罪に当たると規定されています。
- ・正当な理由がないのに、ひそかに性的姿態等(性的な部位、身に着けている下着、わいせつ行為・性的行為中の人の姿)を撮影すること。
- ・刑法の不同意わいせつ罪(刑法176条)に該当する状況にある撮影対象者の性的姿態等を撮影すること。
- ・撮影対象者に性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそのような誤信をしていることに乗じて、性的姿態等を撮影すること。
- ・正当な理由がないのに16歳未満の未成年者の性的姿態等を撮影すること。
一般的に盗撮と呼ばれる犯罪は、正当な理由がないのに、ひそかに性的姿態等(性的な部位、身に着けている下着、わいせつ行為・性的行為中の人の姿)を撮影する行為を指します。
「ひそかに」とは、相手に気づかれないようにスマートフォンのカメラを操作して撮影することや隠しカメラを仕掛けることなどが該当します。
4.着衣状態でも盗撮罪は成立するのか?
盗撮罪というと、スカートを穿いている人に対して、スカートの中を撮影することやトイレの個室に隠しカメラを仕掛けることなどが典型例ですが、完全な着衣状態にある相手をひそかに撮影する行為も盗撮に該当することがあります。
例えば、
- ・長ズボンを穿き、露出の低い上着を着ている女性であっても、その女性のバスト、ウエスト、ヒップ等が強調される状態になっている場合に、その様子を執拗に複数回にわたり撮影するような行為
- ・スポーツ中で露出の高い服装を着ている女性の露出部分を執拗に複数回にわたり撮影するような行為
こうした行為は、新設された性的姿態撮影等処罰法の撮影罪には該当しなくても、都道府県が定めている迷惑防止条例の違反に該当するものとして、逮捕、起訴され、有罪判決が下されてしまう事例もあります。
例えば、福岡県迷惑行為防止条例第6条には、卑わいな行為等の禁止の規定が設けられており、次のように規定されています。
何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
- 一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)の上から触れること。
- 二 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
上記のような撮影行為により、撮影対象者が「著しく羞恥」したり、「不安を覚えた」場合は、「卑わいな言動」を行ったものとして、迷惑防止条例の違反になり、逮捕、起訴される可能性があります。
5.盗撮事件の示談金(慰謝料)が高額になる要因
盗撮の示談金(慰謝料)の相場は、約30万円が中間値ですが、事案により大きく変動します。
盗撮の示談金が高額になるのはどのようなケースか解説します。
5.1被害者の精神的苦痛が大きい場合
盗撮により被害者が被った精神的苦痛が大きい場合です。
知らない人に勝手に盗撮されているだけでも苦痛ですが、盗撮された画像や映像がインターネットで出回っていることを知ってしまった場合の精神的ショックは計り知れません。
その結果、被害者が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまった場合は、支払うべき示談金(慰謝料)の額も高額になります。
また、トイレに隠しカメラが仕掛けられていたことを知ったことがきっかけで、被害者が自宅以外のトイレが使えなくなった場合も、示談金(慰謝料)の額が増える可能性があります。
5.2被害者が著名人の場合
盗撮の被害者が芸能人などの場合は、盗撮された画像や映像がインターネットに出回ることにより、多数の人に注目されてしまいますから、被害者が被る精神的ショックは大きなものになります。
精神的苦痛に対する慰謝料だけでなく、実際に被った損害も含めて請求されると、示談金の額が跳ね上がることもあります。
5.3被害者が未成年の場合
被害者が16歳未満の未成年の場合は、ひそかに撮影していたかどうかに関わらず、正当な理由がないのに、性的姿態等を撮影した場合は、性的姿態等撮影罪に該当します。
未成年者が盗撮の被害を受けた場合は、成人の被害者よりも精神的ショックが大きい傾向がありますから、慰謝料も高額になりがちです。
また、実際の交渉相手は、未成年者の家族、多くの場合、親になりますが、家族や親の怒りは大きい可能性が高く、示談成立が難航する可能性もあります。
5.4加害者が常習的に盗撮を行っていた場合
加害者が隠しカメラを用意するなどして、常習的に盗撮行為を行っていた場合は、機器の解析などの警察の捜査により被害者が複数発見され、それぞれ被害届が出ると、示談交渉をすべき相手が複数になる場合もあります。
その場合には、示談すべき被害者の人数分の示談金が必要となり、合計額が大きくなってしまう場合があります。
5.5加害者が住居侵入罪・建造物侵入罪を犯している場合
駅や会社のトイレなどに隠しカメラを仕掛ける目的で侵入することは、建造物侵入罪に該当します。
住居侵入罪・建造物侵入罪の刑罰は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金です。
仕掛けた隠しカメラで盗撮行為を行った場合は、性的姿態等撮影罪との牽連犯になるため、より重い、性的姿態等撮影罪の法定刑で処罰されます。
2つの罪を犯していることになるため、出来心でスマートフォンを使ってスカートの中を撮影してしまった場合と比べると、罪が重いと判断できますし、被害者としても処罰感情が高くなっていることも多いでしょう。
また、建造物侵入罪の被害者は建造物の管理者で、住居侵入罪の被害者は住居権者ですから、それぞれ被害者が異なり被害者が複数となる場合もあり、必然的に支払う示談金の合計額が高くなり得ます。
5.6加害者が盗撮データを販売、頒布している場合
加害者が盗撮した画像や動画をインターネットなどで販売したり、頒布している場合です。
性的姿態撮影等処罰法では、こうした行為も性的影像記録提供等罪として処罰の対象となっています。
特定・少数の者に提供した場合は、性的姿態等撮影罪と同じ3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金ですが、不特定・多数の者に提供した場合は、5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金と罪が重くなります。
特に不特定・多数に販売していた場合は、被害者としては自身の写真が流出する上に加害者が相当の利益を得ていたわけですから、当然処罰感情が高まり、示談に応じてくれないことも多いでしょう。
示談成立を目指す場合は、それなりに高額な示談金を用意する必要があります。
6.盗撮事件で示談を成立させるためのポイント
盗撮事件では、被害者が、直接、痴漢されたり、暴行されるケースは少ないでしょう。
ただ、ひそかに盗撮されていたことを知った時の被害者の怒りや精神的ショックは大きいため、加害者が示談を持ち掛けても、応じてくれないこともあります。
加害者本人が被害者に直接会い、謝罪や示談を行おうとしても、被害者が面会すら応じてくれないことが多いですし、仮に示談にこぎつけても法外な示談金を求められてしまうこともあります。
また、逮捕された場合、警察や検察が加害者本人に被害者の連絡先を知らせてくれることはないため、被害者が知っている人でない限り、連絡が取れず、示談さえ難しいこともあります。
そのため、盗撮事件で示談を成立させるためには、弁護士への相談との関与が必須と言えます。
弁護士なら、被害者が同意すれば、警察や検察から被害者の連絡先を聞くことができます。
被害者が、加害者本人との面会を拒否している場合でも、弁護士からの連絡であれば、話を聞いてくれることがあります。
また、示談金の交渉についても、加害者代理人の弁護士側から、適切な示談金の額を提示することもできます。
少なくとも、被害者側から法外な示談金の支払いを求められて、加害者代理人の弁護士が簡単に応じてしまうことはありません。
7.盗撮事件で示談を成立させる加害者側のメリット
盗撮事件で示談を成立させることには、加害者、被害者双方にとってメリットがあります。
まず、加害者側のメリットを確認しましょう。
7.1被害届が取り下げられて逮捕を免れる可能性がある
刑事事件では、示談を成立させ、示談書に被害者が加害者を許す旨の宥恕条項が盛り込まれた上、被害者が被害届を取り下げた場合は、加害者が逮捕されてしまう事態を防げる可能性が高くなります。
盗撮は刑事事件でも比較的軽微な犯罪なので、相当に悪質性が高い事件でない限り、警察や検察の捜査機関も「被害者が許しているかどうか」を重視するため、示談が成立したり、被害届が取り下げられれば、当事者間では事件は終わったものと判断して、捜査を終了し、不起訴とすることも多いです。
7.2逮捕・勾留された場合でも早期釈放の可能性が高まる
盗撮事件で逮捕されたとしても、示談が成立し、示談書に宥恕条項が盛り込まれれば、検察が勾留請求をしないこともありますし、勾留請求したとしても裁判所が却下する可能性が高まります。
既に勾留されている場合でも、示談が成立すれば、早期に身体拘束が解かれる可能性が高まります。
また、示談交渉が終わっていなくても、弁護士が示談交渉を進めていることを検察に伝えれば、検察が示談成立の可能性が高いと判断し、被疑者の釈放が認められることもあります。
7.3有罪判決を受け前科が付く可能性が低くなる
どのような刑事事件でも、勾留後に検察官が起訴してしまうと、ほぼ確実に有罪判決を受けてしまいます。
盗撮事件も例外ではありません。
執行猶予はついても、前科が付いてしまうことに変わりはありませんし、私生活で様々な弊害が生じることがあります。
そのため、検察官が起訴する前までに示談を成立させることで、不起訴処分を勝ち取ることが非常に重要になります。
起訴後もあきらめるのではなく、判決が出るまでに示談を成立させれば、執行猶予付きで、軽い刑罰で許されるといった減刑を受けられることもあります。
8.盗撮事件で示談を成立させる被害者側のメリット
盗撮事件の示談を成立させることは被害者にとってもメリットがあります。
刑事弁護に強い弁護士が被害者と示談交渉を行う場合は、下記のメリットを示しながら交渉します。
8.1示談金(慰謝料)を受け取れる
盗撮被害により被った精神的苦痛はそう簡単に癒えるものではありませんが、金銭的補償を受けることにより、ある程度は和らぐでしょう。
盗撮行為が性的姿態等撮影罪に該当する場合は、加害者は罰金を科せられることがありますが、この罰金は、国に納付され、被害者が受け取れるわけではありません。
それならば、被害を受けた自分が罰金相当額を受け取るべきだと考える被害者の方もいらっしゃいますし、そうした感情を抱くことは間違いではありません。
また、加害者が示談交渉を持ち掛けてこなかった場合に損害賠償を求めるなら、被害者自身が請求するか民事裁判を起こさなければなりません。
損害賠償を裁判で求める場合は、弁護士に相談したり、依頼する必要があり、そのための費用は自分で負担しなければなりません。
しかも、民事裁判で勝訴しても、相手が任意に支払わない場合は、強制執行をしなければならず、そのための費用もかかります。
こうしたことを考えると、加害者側から示談を持ち掛けてきた機会に、損害賠償も含めて話をつけたおいた方が、後々のトラブルを避けられることになります。
8.2加害者に対する警告条件を付けられる
加害者が盗撮だけでなくストーカー行為も行っている場合、被害者としては、今後、加害者から何をされるか不安になることも多いでしょう。
被害者がそのような不安を抱いている場合は、示談の際、今後、加害者が被害者に接近しない旨の条件を設けた上で、違反した場合は高額な違約金を支払う旨を盛り込むことが考えられます。
示談を行わなければ、加害者が釈放された後で、仕返しされないか不安を抱えながら過ごすことになってしまいますが、こうした内容の示談を成立させておけば、不安が多少和らぎます。
8.3法廷での証言を行わなくて済む
盗撮事件が起訴された場合、被害者は、法廷で盗撮時の状況について証言を求められることがあります。
盗撮被害の状況を思い出すことは、被害者にとって、精神的負担が重いものです。
その点、示談が成立していれば、起訴される可能性は低いため、被害者が証人として法廷に呼び出されることはなくなります。
9.まとめ 盗撮事件の示談の交渉は刑事弁護に強い弁護士にご依頼ください
盗撮事件の示談交渉で、適切な相場に沿った示談金で交渉を成立させるためには、被害者側のメリットも示すことが大切です。
盗撮事件の加害者本人が被害者側のメリットを提示しながら話すのは難しいですし、被害者側のメリットを強調していると、反省していないと思われて、示談すら成立させることが難しいと思います。
やはり、盗撮事件の示談交渉は、刑事弁護に強い弁護士に依頼するのが最善です。
相場に沿った適切な示談金額で示談を成立させるためにも刑事弁護に強い弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:弁護士 原 隆