会社役員・経営者が刑事事件を起こした場合の会社への影響【弁護士が解説】
目次
はじめに
会社の役員や経営者が刑事事件を起こしてしまった場合、その影響は本人にとどまらず、会社そのものの存続や信用に波及する可能性があります。取引先からの信頼の失墜、金融機関との関係悪化、従業員の動揺、さらには上場企業であれば株価への影響——経営者の逮捕がもたらすダメージは、一般の従業員が逮捕された場合とは比較にならないほど甚大です。
一方で、早期に適切な対応をとることで、会社への影響を最小限に抑えられるケースもあります。刑事処分の軽減を図りながら、同時に会社の事業継続を守るという、二つの課題を並行して解決していく必要があるのです。
本コラムでは、会社役員・経営者が刑事事件を起こした場合に生じる法的な問題、会社への具体的な影響、そして対処法について解説します。
役員としての地位への法的影響
会社法上の欠格事由
会社法第331条第1項は、取締役の欠格事由を定めています。この規定により、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行を受けることがなくなるまでの者は、取締役に就任することができません。すでに取締役に就任している場合には、有罪判決の確定と同時にその地位を失います。
ここで注意すべきは、執行猶予付きの判決を受けた場合の扱いです。拘禁刑以上の刑に処せられた場合であっても、執行猶予が付されたときは、猶予期間中は欠格事由に該当します。しかし、執行猶予期間が満了すれば刑の言渡しが効力を失うため、その時点で欠格事由は消滅し、再び取締役に就任することが可能になります。
一方、罰金刑の場合は、欠格事由に該当しません。ただし、会社法に規定する特定の犯罪(特別背任罪、会社財産を危うくする罪など)により罰金刑に処せられた場合には、刑の執行を終わった日から2年間は欠格事由に該当します。
監査役・会計参与への影響
監査役および会計参与についても、取締役と同様の欠格事由が定められています(会社法第335条第1項、第333条第1項)。拘禁刑以上の刑に処せられた場合には、これらの役職からも退任することになります。
会社への具体的な影響
取引先・金融機関への影響
経営者の逮捕が報道されれば、取引先や金融機関の信頼を一気に失うおそれがあります。取引の停止や縮小、融資の引き揚げ、新規取引の拒否といった事態が生じれば、会社の資金繰りや事業継続に直接的な打撃を与えます。
特に中小企業の場合、経営者個人の信用と会社の信用が密接に結びついていることが多いため、経営者の逮捕が会社の存続そのものを危うくするケースも珍しくありません。
許認可・入札資格への影響
事業の遂行にあたって許認可が必要な業種では、経営者の有罪判決が許認可の取消しや更新の拒否につながることがあります。建設業許可、宅地建物取引業免許、貸金業登録など、多くの許認可制度において、役員が拘禁刑以上の刑に処せられたことを欠格事由としています。
また、官公庁の入札に参加している企業では、指名停止処分を受ける可能性があります。公共事業が売上の大きな割合を占める企業にとっては、経営を揺るがす事態となり得ます。
従業員への影響
経営者の逮捕は、従業員の不安と動揺を招きます。会社の将来に対する不安から優秀な人材が流出したり、採用活動に支障が生じたりする可能性があります。従業員のモチベーション低下は、事業の質や生産性にも影響を及ぼします。
上場企業特有の影響
上場企業の場合には、経営者の逮捕は適時開示の対象となり得ます。開示によって株価が急落するリスクがあるほか、証券取引所から改善報告書の提出を求められたり、場合によっては上場廃止の審査対象となったりする可能性もあります。
刑事処分の軽減に向けた弁護活動
1. 不起訴処分の獲得
経営者の刑事事件においても、不起訴処分の獲得が最も重要な目標であることに変わりはありません。不起訴であれば前科がつかず、欠格事由にも該当しないため、役員としての地位を維持することができます。
弁護士は、被害者がいる事件では迅速に示談交渉を進め、被害弁償と宥恕を獲得した上で、検察官に対して不起訴が相当である旨の意見書を提出します。
2. 罰金刑の獲得
不起訴処分が得られなかった場合には、罰金刑にとどめることが次の目標となります。罰金刑であれば、会社法上の一般的な欠格事由には該当しないため、取締役の地位を維持できます。許認可についても、罰金刑であれば欠格事由に該当しない場合が多く、事業継続への影響を最小限に抑えることが可能です。
3. 執行猶予の獲得
正式裁判となった場合には、執行猶予付き判決の獲得を目指します。実刑判決を受ければ服役中は経営に一切関与できなくなり、会社への影響は計り知れません。執行猶予が付されれば、社会内で生活を続けながら経営にあたることが可能です。
ただし、禁錮以上の刑である以上、執行猶予付きであっても欠格事由に該当し、役員の地位は失われます。執行猶予期間中は取締役に就任できませんが、期間満了後に再任されることは制度上可能です。
会社を守るための対処法
1. 事業継続体制の早急な整備
経営者が逮捕・勾留された場合、会社の意思決定や日常業務に支障が生じることは避けられません。弁護士と相談の上、速やかに以下の対応を検討する必要があります。
他の取締役や幹部社員への権限委譲、代表取締役の職務代行者の選任(必要に応じて裁判所への申立て)、重要な契約や取引の継続に必要な手続きの確認、資金繰りの確保と金融機関への対応方針の策定などが急務です。
特にオーナー経営者の場合、会社の意思決定が一人に集中していることが多く、不在時の体制整備がより一層重要になります。
2. 早期の身柄解放
経営者の長期不在は会社に深刻なダメージを与えるため、早期の身柄解放は刑事弁護と会社防衛の双方にとって最優先課題です。弁護士は、勾留決定に対する準抗告や勾留取消しの請求を行い、一日でも早い身柄解放を目指します。
起訴後は保釈請求を行います。経営者としての職務の必要性や、会社経営への重大な支障を具体的に示すことで、保釈が認められる可能性を高めます。
3. 役員変更への対応
欠格事由に該当して取締役を退任した場合には、速やかに後任の取締役を選任する必要があります。取締役の員数が定款で定めた最低数を下回る場合には、会社法上、後任者が就任するまで退任した取締役が権利義務を有するとされますが、事業運営上の混乱を避けるためにも、早急に後任者を選任することが望ましいです。
役員変更の登記手続きも遅滞なく行う必要があります。弁護士や司法書士と連携して、法的手続きを漏れなく進めましょう。
4. 報道対策と情報管理
経営者の逮捕が報道された場合には、取引先、金融機関、従業員、株主など、各ステークホルダーへの説明を適切に行うことが不可欠です。説明が不十分であれば憶測や噂が広がり、事実以上のダメージを被ることになります。
弁護士と相談の上、事実関係の説明範囲、再発防止策、今後の経営体制などについて、統一的なメッセージを策定することが重要です。報道機関への対応についても、弁護士を窓口として一元的に行うことで、不用意な発言によるリスクを防ぐことができます。
5. 許認可の維持に向けた対応
事業に必要な許認可が影響を受ける可能性がある場合には、監督官庁への対応も視野に入れる必要があります。役員の変更届を速やかに提出する、欠格事由に該当する役員を退任させた上で許認可の維持を図るなど、事業の継続に必要な手続きを先回りして進めることが大切です。
弁護士は、各許認可の根拠法令を確認し、欠格事由の該当性や届出の要否について正確な助言を行います。
おわりに
会社役員・経営者が刑事事件を起こした場合、その影響は個人の問題にとどまらず、会社の存続、従業員の生活、取引先との関係など、広範囲に及びます。しかし、早期に弁護士に依頼し、刑事処分の軽減と会社防衛の双方を見据えた包括的な対応をとることで、ダメージを最小限に抑えることは可能です。
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※本コラムは一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属 登録番号52401)
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