示談書の書き方と注意点|刑事事件の示談書に盛り込むべき条項を弁護士が解説
目次
はじめに
刑事事件において、被害者との示談が成立するかどうかは、検察官の起訴・不起訴の判断や裁判所の量刑に極めて大きな影響を与えます。しかし、せっかく示談の合意に至っても、示談書の内容が不十分であれば、期待した法的効果が得られないことがあります。
示談書は、当事者間の合意内容を正確に記録し、後日の紛争を防止するための重要な書面です。特に刑事事件では、示談書の記載内容がそのまま検察官や裁判官に提出される証拠となるため、盛り込むべき条項を過不足なく記載することが求められます。
本コラムでは、刑事事件における示談書の基本的な書き方、盛り込むべき主要な条項、そして作成にあたっての注意点について解説します。
示談書の基本構成
刑事事件の示談書は、一般的に以下の要素で構成されます。
冒頭には、当事者の表示として、加害者(甲)と被害者(乙)の氏名を記載します。次に、示談の対象となる事件を特定するため、事件の概要(日時、場所、行為の内容)を記載します。その後、示談金の金額と支払方法、被害者の意思表示(宥恕や告訴の取下げ等)、清算条項などの各条項が続き、最後に作成日と当事者双方の署名・押印をもって締めくくります。
以下では、特に重要な条項について個別に解説します。
盛り込むべき主要な条項
1. 事件の特定
示談書の冒頭では、示談の対象となる事件を明確に特定する必要があります。「令和○年○月○日、○○市○○において、甲が乙に対して行った暴行事件」というように、日時・場所・行為の内容を具体的に記載します。
事件の特定が曖昧であると、示談の対象範囲が不明確となり、後に「この件は示談の対象に含まれていない」という争いが生じるおそれがあります。また、検察官や裁判官が示談書を確認する際にも、どの事件に関する示談であるかが明確でなければ、証拠としての価値が低下します。
2. 示談金の金額と支払方法
示談金の金額は、具体的な数字を明記します。「金○○万円」と明確に記載し、曖昧な表現は避けましょう。
支払方法についても、一括払いか分割払いか、支払期日はいつか、振込先の口座情報などを具体的に定めます。
また、示談金の支払いと引き換えに被害者が一定の行為(告訴の取下げ等)を行うという構成にする場合には、その順序や条件についても明確に記載する必要があります。
3. 宥恕条項
宥恕(ゆうじょ)条項とは、被害者が加害者を許す意思を表明する条項です。「乙は、甲の真摯な謝罪と反省を受け入れ、甲を許す(宥恕する)」「乙は、甲の処罰を求めない」「乙は、甲に対する寛大な処分を望む」といった文言で記載されるのが一般的です。
宥恕条項は、検察官の起訴・不起訴の判断に極めて大きな影響を与えます。示談が成立していても、被害者が「許してはいない」「厳罰を求める」という立場であれば、検察官は起訴に踏み切る可能性があります。逆に、宥恕の意思が明確に示されていれば、不起訴処分を得られる可能性が大きく高まります。
4. 告訴取下げに関する条項
名誉毀損罪、侮辱罪、器物損壊罪など、親告罪に該当する犯罪の場合には、被害者が告訴を取り下げれば検察官は起訴できなくなります。したがって、親告罪の事案では、告訴の取下げに関する条項を盛り込むことが極めて重要です。
「乙は、本示談の成立をもって、本件に関する告訴を取り下げる」といった明確な文言で記載します。告訴取下書を別途作成し、示談書と一体として検察官に提出する形が円滑です。
5. 被害届の取下げに関する条項
親告罪ではない犯罪であっても、被害者が被害届を取り下げる意思を示すことは、不起訴処分の獲得に有利に働きます。被害届の取下げ自体に検察官を拘束する法的効力はありませんが、被害者の処罰感情が緩和されていることを示す重要な事情として考慮されます。
「乙は、本件に関する被害届を取り下げるものとする」という条項を盛り込むことが望ましいです。
6. 接触禁止条項
被害者が加害者からの今後の接触に不安を感じている場合には、接触禁止条項を設けることが有効です。「甲は、今後一切、乙に対し、直接または間接を問わず、接触、連絡、付きまとい等の行為を行わない」といった文言で記載します。
この条項は、被害者に安心感を与え、示談成立を後押しする効果があります。また、ストーカー事案やDV事案、SNSでの誹謗中傷事案など、再接触のリスクが特に懸念される事件では、不可欠な条項ともいえます。
7. 清算条項
清算条項は、示談書に記載された内容以外には、当事者間に一切の債権債務がないことを確認する条項です。「甲と乙は、本示談書に定めるもののほか、本件に関し、甲乙間に何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった文言で記載します。
清算条項を設けることで、示談成立後に被害者から追加の金銭請求を受けるリスクを防止できます。加害者にとっては、紛争の最終的な解決を確保するために欠かせない条項です。
8. 秘密保持条項
示談の内容を第三者に口外しないことを約束する条項です。双方にとってプライバシーの保護に資するものであり、特に被害者が事件の内容を周囲に知られたくない場合には重要な意味を持ちます。
事件類型に応じた特有の条項
上記の基本的な条項に加え、事件の類型によっては特有の条項を盛り込む必要があります。
盗撮やリベンジポルノ事件では、画像・動画データの完全削除、今後一切の保有・複製・頒布の禁止を明記する場合が多々があります。窃盗・詐欺事件では、被害品の返還または被害弁償金の支払いに関する詳細な取り決めが必要です。
このように、事件の内容に応じて示談書の条項をカスタマイズすることが、実効性のある示談書を作成するためには不可欠です。
示談書作成の注意点
曖昧な表現を避ける
示談書は法的な文書であるため、解釈の余地が生じるような曖昧な表現は避けなければなりません。金額、期日、行為の内容などは、できる限り具体的かつ明確に記載しましょう。
被害者に不利な条項を押し付けない
示談はあくまで双方の合意によるものです。加害者側にとって一方的に有利な条項を並べた示談書は、被害者の不信感を招き、示談の成立自体を妨げる原因となります。被害者の立場に配慮した誠実な内容とすることが、結果的に示談成立への近道です。
公正証書にする必要はあるか
刑事事件の示談書は、必ずしも公正証書にする必要はありません。当事者双方が署名・押印した私文書であっても、検察官や裁判官に対する証拠としては十分に機能します。ただし、分割払いの取り決めがある場合には、支払いの履行を確保するために公正証書を作成することを検討してもよいでしょう。
弁護士に作成を依頼すべき理由
示談書は、法的な効果を正確に発生させるための文書です。条項の一つひとつが、刑事処分の結果や将来の紛争防止に直結します。インターネット上のテンプレートをそのまま使用すると、事案に適合しない条項が含まれていたり、必要な条項が欠落していたりするリスクがあります。刑事事件の示談書は、事案の内容を正確に把握した弁護士に作成を依頼することを強くお勧めします。
おわりに
示談書は、単なる合意の記録ではなく、刑事処分の結果を左右し、将来の紛争を防止するための極めて重要な法的文書です。盛り込むべき条項を過不足なく記載し、被害者の心情にも配慮した内容とすることで、示談書は最大限の効果を発揮します。
当事務所では、初回相談無料・365日24時間のお電話対応でご相談を受付けております、示談交渉から示談書の作成まで一貫してサポートしております。刑事事件の示談についてお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
※本コラムは一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:弁護士 原 隆(福岡県弁護士会所属 登録番号52401)
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