器物損壊は刑事事件になる? 器物損壊罪が成立するケースや示談すべき理由を解説
刑事事件他人の物を壊した場合は器物損壊になります。
わざと壊していなくても被害者が納得しない場合は、警察に通報されて、器物損壊罪として逮捕されることもあります。
器物損壊罪が成立するケースや弁護士に依頼し示談を成立させる必要性について解説します。
目次
器物損壊で弁償しないと逮捕される? 器物損壊罪で示談すべき理由について解説
器物損壊罪は、他人の物をわざと壊した場合に成立しますが、壊したというのは物理的に壊した場合に限りません。
また、わざと壊したかどうかに関わらず、民事上は、損害賠償義務を負うことになります。
器物損壊罪は軽微な犯罪ですが、逮捕、起訴されて、有罪判決が下されて、前科が付いてしまうこともあります。
こうした事態を防ぐためにも、他人の物を壊してしまった場合は、弁護士に相談し、被害者との間で示談を成立させることが大切です。
器物損壊罪とは
器物損壊罪は、刑法261条に規定されていますが、他人の物を損壊し、又は傷害した場合に刑罰に処せられるというものです。
法定刑は、3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料とされています。
なお、器物損壊罪は、親告罪とされており、告訴がなければ訴えを提起できないものとされています。
器物損壊罪の対象となる「他人の物」とは?
器物損壊罪の対象となる他人の物とは、
- ・公用文書等
- ・私用文書等
- ・建造物又は艦船
- ・境界
これら以外の物すべてを指します。
これらの物を損壊した場合は別途刑罰が定められているため、器物損壊罪の対象になりません。
身近なもので言えば、
- ・他人の車
- ・他人のパソコンやスマホ
- ・他人のペット
こうした物を損壊した場合は、器物損壊罪に問われることになります。
器物損壊罪の損壊とは?
器物損壊罪の損壊や傷害とは、どのようなことを指すのでしょうか?
まず、物理的に損壊することは誰しも思いつくと思います。
例えば、他人の車やパソコンやスマホを物理的に壊してしまった場合は、器物損壊に該当しますし、他人のペットに怪我を負わせた場合も同様です。
さらに、判例は、事実上、若しくは感情上、器物を再び本来の目的に供することができない状態にすることも含むとしています(大判明治42年4月16日)。
この判例の事例は、飲食店の食器に放尿した事例でしたが、大審院は器物損壊に当たるとの判決を下しました。
また、養魚池の水門を開いて、そこで飼っていた鯉を流出させた事案でも、器物損壊罪に当たるとの判決が下されています(大判明治44年2月27日)。
その他、次のような行為も器物損壊に当たります。
- ・窓ガラスにビラを多数貼り付けて外が見えなくしてしまう行為(窓ガラスが割れていなくても、窓の機能を失わせたため、器物損壊に当たる)。
- ・他人のパソコンにウィルスを送りつけて、ハードディスクを使えなくしてしまう行為(ハードディスクを物理的に破壊したわけではなくても、使えなくしたため、器物損壊に当たる)。
故意でない器物損壊は罪になるのか?
他人の物を壊してしまった場合は、器物損壊に当たる可能性があります。
ただ、他人の物を壊す行為全てが器物損壊罪として処罰の対象になるわけではありません。
刑法38条1項に、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定められていますが、器物損壊についても、壊そうと思って壊した、つまり、故意で壊したのでなければ、器物損壊罪として裁かれないということです。
うっかり、誤って、不注意で、他人の物を壊してしまったケースは、器物損壊罪に該当しません。
もっとも、持ち主がその物を大切にしていた時は、壊されたときの怒りのあまり、「わざと壊した」と問い詰めてくることもあるでしょう。
器物損壊は親告罪であるだけに、被害者がわざと壊したと主張している場合は、告訴されてしまい、警察の捜査が入ってしまうこともあります。
器物損壊罪として刑事手続が進められてしまった場合は、故意ではないと主張しなければ、有罪となってしまう可能性があるわけですが、状況によっては、故意ではないことの主張は難しくなることもあります。
故意かどうかに関わらず器物損壊では弁償と示談が重要
故意ではない器物損壊では、刑事手続が進められた場合、故意ではないことを主張、立証することが難しいこともあります。
ただ、器物損壊は親告罪です。
被害者が告訴しなければ、刑事手続は進みませんし、警察が被害届を受理して捜査を進めていた場合でも、告訴が取り下げられた時点で刑事手続が終了します。
そのため、故意かどうかに関わらず器物損壊では、被害者の許しを得ることが非常に大切になります。
器物損壊における示談の流れについて解説します。
被害者に謝罪する
故意に他人の物を壊したわけではない場合でも、まずは、謝罪をすることが大事です。
口頭の謝罪だけで相手が納得しない場合は、謝罪文などを作成することも検討します。
弁護士が代わりに謝罪する場合は、被害者に加害者本人の謝罪の意思が伝わりにくいこともあるため、謝罪文が必要になることもあります。
被害者と示談する
被害者が謝罪を受け入れたら、示談に進みます。
示談では、壊した物を金銭的に弁償することが主なテーマになります。
器物損壊の弁償額は、壊した物の価値や修理に掛かる費用により異なります。
修理不能の場合は、新品購入費用の支払いを求められることもあります。
器物損壊の示談金の内訳
器物損壊の示談金は、壊した物の修理費用、いわゆる弁償だけで足りるとは限りません。
壊した物によっては、次のような金銭の支払いを求められることもあります。
損害賠償金
壊した物の修理費用、いわゆる弁償の費用のことです。
迷惑料
器物損壊が刑事事件化した場合は、被害者も警察の事情聴取を受けるなどの労力や時間がかかってしまいます。
こうした迷惑をかけてしまったことに対する謝罪の意味で支払います。
慰謝料
被害者が大切にしていた物を壊されたことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料のことです。
例えば、他人のペットを死なせてしまった場合に、慰謝料の支払いを求められることもあります。
一般的には、器物損壊の示談金は、その物の金銭的価値を把握したうえで、相応の金銭を弁償するだけで足ります。
ただ、被害者が納得できない場合は、上記のような形の示談金の支払いが必要になることもあります。
器物損壊で加害者が原状回復すべきなのか?
原状回復とは、器物損壊により壊した物を元通りに直すことです。
壊した物がどのようなものであれ、直すにはそれなりの技術が必要になりますが、加害者自身にその技術があるなら、自らの負担で直すこともできます。
この場合、壊す前の状態に完全に直すことができたなら、それ以上の弁償を要求されないこともあります。
もちろん、修理にかかった費用は、加害者がすべて負担すべきです。
加害者自身が直せない場合は、専門の修理業者に修理を依頼することになりますが、そうした手配や修理にかかる費用を加害者が負担するのも一種の弁償と言えます。
ただ、被害者が加害者を信用していなかったり、加害者による修理を拒否することもあります。
この場合は、被害者に修理の手配をしてもらい、修理にかかった費用を弁償する形になります。
もっとも、被害者から提示された見積もりや請求書が、相場よりも高額な場合は、加害者も他の修理業者に依頼して見積もりしてもらうなどして、修理費用について交渉する余地はあります。
器物損壊で保険を使える場合
器物損壊により壊した物に関して、保険が使えることもあります。
自動車の場合は、車両保険がありますし、高額家電などであれば、家財保険が使える可能性があります。
加害者も、器物損壊の経緯によっては、自分が加入する損害賠償保険等から弁償の費用を出すことができるケースもあります。
ただ、保険を使った場合、来期の保険料が上がる場合もあります。
そのため、被害者側は自分の保険が使えても、保険金を請求せず、加害者に対して、弁償を求めることがあります。
この場合は、加害者の立場から、被害者に保険金を請求するよう求めることは難しいので、弁償に応じるしかありません。
器物損壊で弁償や示談金が免除される場合
故意で器物損壊行為をした場合でも、加害者の弁償や示談金の支払いが免除されることもあります。
例えば次のような場合です。
- ・正当防衛による器物損壊
- ・緊急避難による器物損壊
- ・被害者が弁償を辞退した場合
一つ一つ確認しましょう。
正当防衛による器物損壊
正当防衛とは、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ず」に対処行為をした場合です。
例えば、他人のペットである猛犬が襲いかかってきたために、やむを得ずに蹴り飛ばして、その猛犬に怪我を負わせたケースがこれに当たります。
この場合は、他人のペットである猛犬に怪我を負わせても、器物損壊として罪に問われませんし、民事上も治療費等の示談金を支払う必要がないこともあります。
ただ、反撃の程度が過剰だった場合は、過剰防衛となるため、弁償や示談金の支払いが必要になることもあります。
緊急避難による器物損壊
緊急避難とは、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずに」対処行為をした場合です。
その対処行為により生じた損害が、避けようとした害の程度を超えなかった場合は緊急避難となり、器物損壊として刑事責任に問われることはありません。
例えば、車を運転中に対向車が中央線を超えて、正面から突っ込んできたために、正面衝突を避けるために、とっさにハンドルを切って、その結果他人の庭に突っ込み、庭木を倒してしまった場合です。
車で庭に突っ込み、庭木を倒す行為は器物損壊ですが、とっさにハンドルを切っていなかったら、対向車と正面衝突し、より重大な被害が生じていた可能性が高いと言えるため、緊急避難となり、器物損壊行為が罪に問われることはありません。
緊急避難が成立する場合は、器物損壊行為について、弁償や示談金の支払いが必要ないこともあります。
もっとも、車の交通事故の場合は、任意保険により対処することになります。
被害者が弁償を辞退した場合
弁償や示談金の支払いは、必ずしなければならないというものではありません。
加害者が真摯に謝罪した結果、被害者が許して、被害届や告訴を取り下げた上、弁償を辞退したのであれば、弁償や示談金を支払う必要はありません。
器物損壊の示談で盛り込むべき内容
器物損壊の示談は、次の2つの事項を盛り込むことが重要になります。
- ・加害者の処罰を望まない旨
- ・民事上の損害賠償請求も行わない旨
それぞれ解説します。
加害者の処罰を望まない旨
示談は、被害者が告訴したり被害届を出している場合に取り下げてもらうことを目的に行います。
そこで示談書には、被害者が加害者を許したうえで、告訴や被害届を取り下げる、あるいは、加害者の処罰は望まないと言った趣旨の文言を盛り込むことが重要になります。
告訴したり、被害届を出していない段階でも、被害者が加害者を許し、告訴したり、被害届を出さないと言った趣旨の文言を盛り込むべきです。
民事上の損害賠償請求も行わない旨
器物損壊で示談金を支払う場合は、民事上の損害賠償債務もまとめて支払うという意味合いがあります。
そのため、示談成立の時点で、被害者は加害者に対して、それ以上の賠償請求はできなくなる。債権債務関係はなくなる。という趣旨の文言を盛り込むことが大切です。
器物損壊で弁償や示談交渉しないことはリスクがある
器物損壊により壊した物が対して価値のないものだったとしても、被害者が泣き寝入りするとは限りません。
被害者が警察に告訴したり、被害届を出した場合は、器物損壊事件であっても警察が捜査を行うことがあります。
この場合、次のようなリスクがあります。
逮捕されるリスク
警察からの呼び出しに対して素直に応じなかったり、捜査に非協力的な態度を取ったりした場合は、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるとして逮捕される可能性もあります。
逮捕された場合のリスクは、最大で23日間にわたり、身体拘束を受けてしまう可能性があることです。
この場合、学校や仕事を無断で休まなければならなくなることもあります。
起訴されて前科がつくリスク
器物損壊でも、事案によっては送検されて、検察が起訴することもあります。
起訴されてしまうと高い確率で有罪判決を受けてしまい、罰金や科料といった、軽微な刑罰にとどまったとしても、前科が残ってしまいます。
器物損壊の弁償や示談交渉は弁護士に依頼しよう
器物損壊で、逮捕されたり、起訴されて前科がつくリスクは、被害者への弁償や示談交渉によって、大半は回避可能です。
ただ、加害者だけで示談交渉に赴いても、法外な示談金を求められてしまったり、被害者が示談に応じないこともあります。
このような場合は、弁護士に依頼し、同行してもらうか、代わりに示談交渉を行ってもらうべきです。
弁護士に依頼すれば、法外な示談金を求められることはありませんし、示談書に盛り込むべきことも取りこぼすことはありません。
器物損壊のトラブルに巻き込まれて困っている場合は、早めに弁護士にご相談ください。