痴漢の示談交渉を弁護士に相談するメリット、刑事事件の示談の流れ、示談金・慰謝料の相場について解説
痴漢の刑事事件では弁護士に依頼して示談を成立させることが不起訴処分の獲得のために重要です。
痴漢行為で逮捕されて、刑事裁判に至るまでの中で、いつまでに示談を成立させるべきなのか。
示談金・慰謝料の相場、弁護士に依頼すべきメリットについて解説します。
目次
痴漢事件で示談交渉を弁護士に依頼するメリット、示談金・慰謝料の相場について解説
痴漢事件では示談を成立させることにより勾留回避、不起訴処分の獲得、執行猶予付き判決、罰金刑といった軽い刑罰に留めることが可能です。
また、示談金・慰謝料の相場は約50万円です。
では、痴漢行為で逮捕されてから刑事裁判にかけられるまでの間のどの時点で、示談を成立させるべきなのでしょうか?
また、痴漢の示談交渉は弁護士に相談し依頼するべきなのでしょうか?
それぞれの対処法について、詳しく解説します。
痴漢で逮捕される場合とは
痴漢で逮捕されるケースとしては、電車内やバスで女性の下半身に手を触れてしまった場合が代表例です。
では、このような行為は具体的にどのような犯罪に該当しているのでしょうか。
まず、痴漢罪という犯罪はありません。
痴漢行為を罰する根拠法は、都道府県が定めている迷惑行為防止条例と刑法176条の不同意わいせつ罪です。
迷惑行為防止条例違反の場合
迷惑行為防止条例は都道府県により若干異なりますが、福岡県の場合は次のような規定が設けられています。
福岡県迷惑行為防止条例
第六条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)の上から触れること。
二 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
(罰則)
第十一条 第六条又は第八条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一般的な痴漢と呼ばれる行為は、この迷惑行為防止条例に違反していることを理由に逮捕されます。
典型的な行為類型は次のようなものです。
- ・電車内やバスで、女性の衣服の上から胸、お尻、陰部、太ももなどに触れる。
- ・電車内やバスで、女性に密着して下半身を押し付ける。
- ・電車内やバスで、衣服のボタンやホックを外す。
- ・駅のホームや待合所などですれ違いざまに身体を触る。
刑法176条の不同意わいせつ罪の場合
不同意わいせつ罪とは、相手が同意していないのにわいせつな行為をした場合に行為者を処罰する規定で、法定刑は、六月以上十年以下の拘禁刑とされています。
迷惑行為防止条例と比較すると刑罰が重くなります。
かつては、強制わいせつ罪と表現されていましたが、刑法改正により表現が変わりました。
不同意わいせつ罪の典型例は、女性にお酒を飲ませて、抵抗できない状態にした上で女性を全裸にして陰部や乳房を撫でまわす場合です。
痴漢行為が不同意わいせつ罪に該当する場合としては次のような行為類型が挙げられます。
- ・女性の体を押さえつけた上で無理やりキスする行為。
- ・女性の下着の中に手を突っ込み、陰部や乳房を撫でまわす行為。
- ・抵抗する女性に対して暴力行為を用いるなどして無理やり押さえつけて、衣服を脱がす行為。
同じ痴漢行為でも、よりみだらな場合は、不同意わいせつ罪に該当し、迷惑行為防止条例よりも重い刑罰の対象になってしまうということです。
痴漢で逮捕された場合の刑事手続きの流れ
痴漢行為での逮捕は、電車内やバスで被害者が声を上げたことがきっかけで、被疑者が周囲の乗客や被害者に押さえられて駅員などに引き渡され、警察官が駆け付けて現行犯逮捕されるという流れが一般的です。
被疑者が警察に逮捕された後の流れは次のようになります。
- 1. 警察に逮捕された後は、最大で48時間にわたり、身体拘束されて取り調べを受けます。
- 2. その後、検察に送検され、最大で24時間にわたり、身体拘束されて取り調べを受けます。
- 3. 検察が必要と判断した場合は、裁判所に勾留請求を行い、認められた場合は、10日から20日間にわたり身体拘束が続き、取り調べが継続します。
- 4. 取り調べの完了後、検察が起訴するかどうかの判断を行い、正式起訴(公判請求)後は刑事裁判へ進みます。
- 5. 正式起訴(公判請求)された場合は、高い確率で有罪判決が下されて、前科が付いてしまいます。
このように痴漢で逮捕された場合のリスクとしては、身体拘束期間が長くなることや、起訴されてしまうと有罪となり前科が付いてしまう可能性が高くなることが挙げられます。
痴漢における示談とは
刑事事件における示談とは、加害者(被疑者)が被害者に対して、犯罪行為について謝罪したうえで一定額の示談金(慰謝料、解決金)を支払う形で行われます。
その見返りとして、被害者が警察に提出した被害届を取り下げてもらったり、示談書に「加害者を許す」「刑事処罰を望まない」旨の宥恕文言を盛り込んだり、民事上の損害賠償請求や慰謝料請求も今後一切行わないといった合意を盛り込むこともあります。
痴漢において示談を成立させるメリット
痴漢において示談を成立させることには、加害者にとって刑事処分を軽くできるメリットがあります。
次のとおりです。
- ・早期の身柄釈放が期待できる
- ・不起訴処分となることが期待できる
- ・刑罰を軽くできる
- ・民事上の問題もまとめて解決できる
それぞれ具体的に解説します。
示談成立のメリット1 早期の身柄釈放が期待できる
被害者との示談を早期に成立させることにより、早い段階で身体拘束を解いてもらうことが可能になります。
痴漢行為は決して軽い犯罪ではありませんが、殺人罪などと異なり、逮捕後、判決が出るまで身体拘束が続くわけではなく、早期に釈放される可能性もあります。
特に、逮捕後、検察官が勾留請求を行う前に示談を成立させてしまえば、検察官において勾留請求を行わないという判断をすることもありますし、勾留請求を行った場合でも裁判所に示談が成立した旨の書類を提出することで勾留請求却下につなげることができます。
既に勾留されている場合でも、示談を成立させたことがきっかけで釈放につながることもあります。
釈放された後は、起訴されるかどうかはともかく、日常生活に戻ることができます。
示談を成立させても早期の身柄釈放が期待できない場合もある
示談を成立させても早期の身柄釈放が必ずしも期待できないケースもあります。
例えば次のような場合です。
- ・加害者が過去にも痴漢行為で逮捕されたことがある場合。
- ・今回の痴漢事件と近接した場所・時間帯で同様の痴漢被害が確認されている場合。
いずれのケースも示談を成立させるだけでなく、取り調べに関して弁護士によるサポートが必要となります。
特に、後者に関しては身に覚えのない痴漢行為に関する冤罪に巻き込まれてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
示談成立のメリット2 不起訴処分となることが期待できる
検察官が起訴する前に被害者との示談を成立させることにより、検察官が起訴しない判断を行う、つまり、不起訴を勝ち取ることができる可能性があります。
不起訴とは、検察官が取り調べを行った結果、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況」を総合的に考慮したうえで、訴追を必要としないと判断することです(刑事訴訟法248条)。
初犯であれば、不起訴となりやすいですが、被害者との間で示談が成立しているかどうかも考慮されます。
不起訴とならず、起訴されてしまった場合は、90%以上の高い確率で有罪となり、執行猶予が付いたとしても前科として残ってしまいます。
そのため、検察官が起訴の判断をする前に、被害者との示談を成立させておくことが非常に重要になるわけです。
前科が付いた場合のデメリット
前科の情報は、一般に公開されているわけではありません。
そのため、執行猶予付き判決が出された場合などは、日常生活に戻ることができますし、影響はそれほどないように見えるかもしれません。
ただ、次のような深刻な影響が出てしまうこともあります。
- ・前科については履歴書の賞罰欄への記載が義務化されるため、就職、転職活動が難しくなる。
- ・犯罪行為を行ったことが離婚事由に該当する場合があるため、配偶者から離婚および慰謝料請求されてしまう可能性がある。
- ・前科が付くことにより就業制限される資格や職業がある。
- ・前科を理由に現在の職場から懲戒処分や停学・退学処分を下されてしまう可能性がある。
- ・再犯時に刑事処分が重くなる。犯罪行為をしたものと疑われやすくなる。
示談成立のメリット3 刑罰を軽くできる
検察官が起訴する前に被害者との示談を成立させることができなかったとしても、示談を試みる意義はあります。
公判が行われている最中に、被害者との示談を成立させることにより、有利な量刑を獲得できる可能性があるためです。
裁判官が判決を下すにあたっては、様々な事情を総合的に考慮しますが、被害者との示談を成立させた上で、示談書に「加害者を許す」旨の宥恕文言や「刑事処罰を望まない」旨の嘆願文言が盛り込まれていれば、裁判官の量刑判断にも一定の影響を与えることができます。
その結果、執行猶予付き判決を獲得したり、拘禁刑の実刑でもより短い刑期の判決の獲得を目指すこともできるわけです。
ただ、起訴された後で刑罰を軽くするためには、被害者との示談を成立させるだけでは十分ではないこともあります。
例えば、
- ・公判などで再犯しないことを誓い、真摯に反省の態度を示す。
- ・家族や配偶者、勤務先の会社の上司などが再犯防止に向けて監督できる旨を示す。
といったような対応も必要になります。
拘禁刑となった場合のデメリット
痴漢で逮捕されて、実刑判決を受けて刑務所で服役することになると、服役期間中は社会との接触が絶たれてしまいます。
逮捕前の勤務先や会社からは解雇されてしまいますし、家族も経済的に困窮してしまう可能性があります。
状況によっては引っ越しや子どもが進学をあきらめるといった事態に発展しかねません。
また、離婚を迫られることもあるでしょう。
刑期を終えて社会復帰する際は、元の職場や会社に復帰できる可能性は低いですし、仕事が見つかるかどうかも分からないのが実情で、社会的に孤立しがちですし、経済的にも困窮してしまう可能性があります。
こうしたことから、起訴された場合でも、実刑、つまり、執行猶予のつかない拘禁刑に処せられてしまうことは、極力避けるべきと言えます。
示談成立のメリット4 民事上の問題もまとめて解決できる
刑事事件における示談は、上記までに解説したとおり、勾留回避、不起訴処分の獲得、軽い刑罰の獲得など、刑事処分を軽くすることを目的に行いますが、同時に民事上の請求権を被害者側に放棄してもらう意味があります。
犯罪を犯した場合、罰金刑に処せられることもありますが、加害者が支払った罰金は、国に納付されるのであって、被害者には一円も渡りません。
被害者としては、被害によって被った精神的な苦痛に対する慰謝料請求や衣服を汚されたり破かれたといった実害に対する損害賠償請求については、刑事手続きとは別に自分で行わなければならないわけです。
そのためには、自分で弁護士を雇って、民事訴訟を起こし、損害賠償請求を求める形になる等一定の費用や手間がかかってしまうのが一般的です。
その点、加害者側の弁護士が示談を持ちかける場合は、こうした民事上の慰謝料請求や損害賠償請求額も含めた上で、示談金額について交渉するのが一般的です。
被害者としても自分で弁護士を雇って、加害者に民事上の慰謝料請求や損害賠償請求を行うよりも手間が省けることから、これらの損害も含めて示談に応じることのメリットがあるわけです。
なお、民事上の問題もまとめて示談により解決する場合は、その旨の合意を示談書に明記することが重要になります。
痴漢で逮捕された場合に示談を成立させる方法
示談は、加害者が自分自身で被害者に謝罪して行うべきなのでしょうか?
結論から言うと、痴漢のような性犯罪事件では、加害者が自分自身で加害者に接触することは難しいですし、そうすべきではありません
被害者との示談交渉は弁護士に相談し、依頼すべきです。
その理由は次のとおりです。
被害者の連絡先は弁護士でないとわからない
示談するには被害者の連絡先を知る必要がありますが、捜査機関が加害者に被害者情報や連絡先を教えてくれることはありません。
その点、加害者側の弁護士ならば、捜査機関を介して、被害者の連絡先を知ることができる可能性があります。
それとて、被害者側が情報開示に応じた場合の話で被害者側が接触を拒否している場合は、連絡先を知る方法はありません。
また、被害者に連絡を取れるのは弁護士に限るといった制約があることもあります。
その意味で示談交渉を始めたいと思ったら、まず、弁護士に相談することが必須となるわけです。
高額な示談金を請求されてしまうことを防げる
痴漢などの刑事事件の示談交渉の場では、被害者側が優位になります。
加害者側は弁護士がついたとしても基本的に謝罪する立場なので、強く交渉に出ることは難しいものです。
このような場合、被害者側が相場とはかけ離れた高額な示談金額を要求してくることがあります。
仮に、加害者本人が直接示談交渉の場に赴いた場合、高額な示談金を要求されたとしても支払いを断ることが難しいわけです。
その点、弁護士ならば、高額な示談金の支払いを求められた場合でも、適切な相場について説明しつつ、妥協を求めていく形での交渉も可能になります。
弁護士でなければ冷静な話し合いが難しい
痴漢などの刑事事件の被害者は、加害者に対して怒りの感情を持つのが普通です。
加害者が直接出ていけば、罵声を浴びたり、暴行を受けてしまうリスクもあり、とても示談にならないこともあります。
その点、弁護士ならば、被害者側としても怒りの感情を押さえて、比較的冷静に話し合いに応じてくれるものです。
今、示談交渉に応じることでご自身で弁護士を雇って、民事訴訟を起こし損害賠償請求を行うといった手間や費用が省けることを理解してもらい、民事上の損害賠償請求についてもまとめて合意を成立させることもできます。
もちろん、示談金も適正な額で納得してもらえるわけです。
痴漢で逮捕された場合の示談金額の目安・相場
痴漢で逮捕された場合の示談金額の目安や相場は、
迷惑防止条例違反の場合には30万円〜50万円ほどと比較的金額を抑えられますが、不同意わいせつ罪の場合には50万円〜150万円と高額になりがちです。
もっとも、痴漢被害の状況や被害者が被った精神的苦痛の程度により、適正な金額は大きく変わります。
例えば、被害者が痴漢被害をきっかけに、電車に乗ることができなくなってしまった等の多大な精神的苦痛を被っていることが主張され、迷惑防止条例違反でも、高額な示談金額を要求されることもあります。
痴漢で逮捕された場合の示談は弁護士にご依頼ください
痴漢で逮捕されてしまった場合、勾留を回避して早期の釈放を目指したり、不起訴を勝ち取るためには、早期に示談を成立させる必要があります。
痴漢のような性犯罪では、加害者本人が直接被害者と面会して示談を行うことは事実上難しいです。
そのため、弁護士に示談交渉に関して相談し、依頼することが必須となります。
ただ、弁護士ならば誰でも良いわけではなく、痴漢事件を含む性犯罪事件の示談交渉経験、実績があるかどうか、被害者と加害者の双方とのコミュニケーション能力が優れているかどうか、警察や検察との交渉スキルがあるかどうかがポイントです。
痴漢などの性犯罪の示談交渉は、被害者の気持ちが大切なので、100%示談を成立させられるわけではありませんが、弁護士次第で可能性を高くする事はできます。